君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
玄関先でキャップとリュックを外され、そのままバスルームに連れて行かれた。
でもまさか翔さんに服を脱がされるなんて…思ってなかったから、凄く恥ずかしくて…
人に服を脱がされることは初めてのことじゃないし、裸になることだって…
なのに俺はベルトにかかった翔さんの手首を掴んで止めた。
きっといつもの翔さんだったら…あんな風に哀しく笑う翔さんじゃなかったら、もしかしたら素直に身を任せていたのかもしれない。
それに、玄関を入ってすぐに感じた違和感…
それは翔さんに対してではなく、この部屋自体に感じたもので…
玄関に入ってすぐに俺の視界に飛び込んで来た、大きめのボストンバッグと、下駄箱の上に置かれたレンタカー会社のキーホルダーが付いた車のキー…
あれば何だったの?
俺と旅行をするための物じゃなかったの?
なのにどうしてわざわざ風呂の準備なんて?
考えれば考える程、翔さんが分からなくて…
俺は熱い湯に逆上せる前に、風呂から上がった。
着替えの中に下着がなかったことに一瞬迷ったけど、翔さんを呼ぶことも出来なければ、ましてやこのままで出て行く勇気なんてなくて…
結局、仕方なしにハーフパンツを素肌の上に履いた。
バスルームを出てリビングのドアを開けると、コーヒーの香ばしい匂いが俺の鼻を擽った。
でも何かが違って感じるのは、コーヒーの香りに混じって時折香る香水の匂いのせい…なのか?
それも翔さんの匂いじゃない、別の…明らかに女性物と分かる匂い…
やべ…
この匂い…、なんか吐き気する…
ちゃんと温まった?」
リビングの入口に立ち竦む俺に気付いた翔さんが、俺をダイニングの椅子に座らせて、タオルで髪を拭いてくれる
優しい翔さんは、相変わらず俺をガキ扱いする。
でも今はその優しさが胸に刺さって…なんだか胸が痛くて…
苦しいよ…