君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第14章 dolore
呼吸も落ち着いて来たところで、俺は漸く目の前のドアをノックした。
でも返事はないし、物音だってしない。
インターホンを鳴らせば済むことなんだけど、もしも寝てたら…って考えたら、目の前にあるボタンを押すのは躊躇った。
もう一度ノックして、それでも返事がなかったら、諦めて帰ろう…
後からメールなり、電話なりすれば良いし…
俺はフッと息を吐き出すと、半分諦めモードでドアをノックした。
さっきよりはちょっとだけ強い力で…
そしたら、さ…
「はい…」って、翔さんの声が返って来て…
続けて、
「誰か…いるのか…?」ってドアの向こうから言われるけど、俺はそれに答えることが出来なくて…
思わず俯いてしまった俺の前で、勢い良くドアが開け放たれ、驚く間もなく、あっという間に部屋の中へと引き込まれてしまった。
「どう…して…?」
絞り出すような翔さんの声に、雨粒で濡れた顔で翔さんを見上げた。
いつもの翔さんに比べると、ほんの少しだけ元気がないようにも見えるけど、顔色は悪くない。
『良かった…』
安堵の思いも込めて呟いた言葉…
でも、
「え…?」
翔さんは俺の唇の動きが読み取れないみたいで…
「ごめん、もう一度…」
困惑したような顔をして首を傾げるから、ならばと思って筆談に切り替えた。
筆談の方が、一度に沢山の言葉を伝えられるし、翔さんにだってちゃんと伝わると思った。
なのにどうしてだろう…、
『良かった…、連絡ないから、今度は本当に熱でも出してるのかと思った…』
やっとの思いで書いた文字は、どれもみんなミミズが這ったような字で…
子供の頃に習字を習っていたおかげで、字だけは綺麗だって褒められることも多かったから、自分でもちょっとショックだった。
きっと雨に濡れて、手が冷えてるからだ…、だからかな、
「とにかく入って…」
そう言って俺の手を取った翔さんの手が、凄く温かかった。