第2章 calando…

俺の背中に細い腕を巻きつけ、しがみ付いて来るニノを見下ろしながら、瞬きを繰り返す度に、あの人の顔が視界にちらつく。

今俺が抱いてんのは、他の誰でもない、ニノだってのに…

ニノのことだけを考えなきゃって…
ニノに集中しなきゃって…

考えれば考えるほど、瞼の裏っ側にこべりついたあの人の面影は、どんどんその色を濃くしていくばかりで…

｢さと…し…、俺…、もう…」

｢えっ…、あ、あぁ…、うん…」

荒い息で限界を訴えるニノに名前を呼ばれて、ハッとして我に返った俺は、頭を一つブルンと振ると、ニノの片足を持ち上げ肩にかけ、腰を少しだけ引いてから、最奥めがけて腰を打ち付けた。

仰け反る背中に腕を回し、華奢な身体が壊れてしまうんじゃないかって程に折り曲げ、深く深く俺自身をニノの身体に捻じ込んでやると、

｢ひっ…、ふか…っ…。ね…、名前…、呼んで…？　和って…おね…が…い…」

小さな悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべながら、俺に名前を呼べと強請ってくる。

俺には普段絶対に呼ばせない名前を…

いつだってそうだ。

ニノは俺に抱かれていても、涙の滲み始めたその目が見つめる視線の先には、いつだって”あの人”がいる。

ニノがずっと憧れ続け、想い続けた”あの人”が…

なんだ…、俺だけじゃないじゃん…

ニノだって他の奴の事考えてんじゃん…、それも俺に抱かれてる時はいつだって…

今日出会ったばかりの人を思い浮かべてる俺なんかより、ニノの方がずっと罪深い。

それでも俺は、そんなニノから離れられずにいるし、ニノもまた俺と離れる事が出来ないでいる。

だから俺は、それが何の慰めにもならない事を知りながらも、

｢和…、好きだ…、和…」

普段は口にする事すら許されない呼び方で名前を呼ぶんだ。

そうするとさ、不思議と罪悪感が消えて行くような気がして…