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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第13章 coda


「とにかく入って…」

智の手を取ると、驚く程冷たくて…

「あ、タオル…、いや、風呂の方が良いか…」

俺は玄関作業で智が被っていたキャップを取り、水気を含んで若干重さの増したリュックを背中から下ろしてやると、冷えきった手を握ってバスルームへと促す。

濡れて身体に張り付いたシャツを脱がせ、ベルトに手をかけたところで、智の手が俺の手首を掴んだ。

「えっ…?」

俺が見上げると、智は顔を赤くして首を横に振った。

「あ…、ごめ…」

智の意を悟った俺は、自分のために用意した着替えを智に押し付けると、忙しなくバスルームを飛び出した。

何やってんだよ、俺は…

ついさっきまで、智を裏切ったことへの罪の意識から、もう二度と会えない…って、会っちゃいけないんだ…って思ってたのに…

それが智の顔を見た途端にこれだ…

智に触れる資格なんて、もう俺にはこれっぽっちもありはしないのに…

智が風呂から上がったら、熱いコーヒーでも飲ませて、それから車でアパートまで送って行けばいい。

まさかこんな形で車を利用することになるとは、露とも思ってなかったけど、でもこれ以上智の身体を雨に晒すわけにはいかない。

たとえそれが別れを決めた後だったとしても、だ。

ただ、まさかこんなに早く終わりを迎えるとは思ってなかったけど…

出来ることなら、もっと長い時間をかけて、ゆっくり智との関係を築いて行きたかった。

だって俺達はまだお互いの気持ちを確かめ合っただけで、何も始まっちゃいないのに…

俺は規則的に落ちる茶褐色の雫を見つめながら、胸に込み上げて来る鬱屈とした感情を打ち砕くように、固く握った拳をカウンターテーブルに叩き付けた。

何度も何度も…指の関節が赤くなっても、何度も何度も…

なのに不思議と痛みなんて感じなくて…

寧ろ、智のことを想うだけで苦しくなる胸と、こんなにも智のことを好いていながら、自分から別れを切り出さなくてはならない辛さの方が、拳の痛みなんより何倍も…何十倍も痛くて…苦しかった。
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