君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第13章 coda
俺が目を醒ましたのは、丁度昼を過ぎた頃だった。
窓の外ではまだ雨が降り続いている。
俺は幾分もスッキリしない気持ちを抱えたまま、ベッドを抜け出すと、普段滅多に溜めることのない風呂に湯を張った。
その間に、ストックしてあったカップ麺を作り、空腹を満たした。
気持ちはこんなに重いのに、腹だけは減るんだから、人間てのはおかしな生き物だ。
腹が満たされたところで、丁度湯張りの終了を知らせるアラーム音が鳴った。
着替えを手に、リビングを出てバスルームに向かう。
その時、玄関の方でコンッと、ドアを叩くような音がしたような気がして…
あ、そう言えば鍵…
彼女が出て行ってから、鍵をかけ忘れていたことを思い出した。
ただ、エントランスを抜けるには、オートロックを解除する必要があるから、マンションの住民、若しくはスペアキーを持った人間しか、建物内に立ち入ることは出来ない。
俺は手に持っていた着替えを洗濯機の上に無造作に置くと、なるべく足音を立てないように玄関へと向かった。
「はい…」
ドアノブを握り、恐る恐る声をかけてみる…が、返事はない。
「誰か…いるのか…?」
再度声をかけてみるけど、やはり返事はない。
気のせいか…
俺はドアスコープを覗いた。
「えっ…」
ドアスコープを覗いた先に見えたのは、ずぶ濡れになって俯く智の姿で…
どうして…!?
考える間もなく、俺はドアを開け放ち、雨に濡れた身体を引き寄せた。
「どう…して…?」
キャップの意味を成さない程濡れた髪を指で掻き上げてやると、雨なのか…それとも涙なのか、濡れた顔が俺を見上げた。
『良かった…』
「え…?」
いつもなら簡単な言葉であれば読み取れる筈の唇の動きが、寒さに震えているせいか、全く読み取れなくて…
「ごめん、もう一度…」
首を傾げた俺に、智はポケットの中からペンとメモ帳を取り出し、
『良かった…、連絡ないから、今度は本当に熱でも出してるのかと思った…』
いつもとは比べ物にならない、乱れた文字を書き綴った。