君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第13章 coda
「ちゃんと温まった?」
湯上りの智をダイニングの椅子に座らせ、首にかけていたタオルで濡れた髪を拭いてやる。
こんなことが前にもあったような…
そうだ、あれは確か…俺が初めて智のアパートに泊まった時のことだ…。
あれからまだそう日も経ってないのに、何だか随分昔のことのように思えるのは、何故だろう…
「ちょっと待ってて、今コーヒー用意するから」
小さく頷いた智は、少し眠そうな目をしていて…
無理もないか…
深夜までバイトで、ろくに睡眠も取れてないだろうから…
それにおそらく…だけど、智はこの雨の中、ずっと俺を待っていた筈だ。
どれだけ俺との旅行を楽しみにしていたことか…
どれだけ俺の迎えを心待ちにしていたことか…
なのにどうして理由を問わない…
どうして…俺を責めない…
いっそのこと酷い言葉で罵ってくれたら、俺の気持ちも少しは晴れるのに…
そんなことを考えていたから…かな…、智がダイニングからリビングへと移動したことすら、俺は気が付かなくて…
「智…?」
コーヒーで満たしたマグカップを手に、ソファに腰を下ろすこともせず、ただ立ち尽くす智の猫背気味の背中に声をかけた。
「智、コーヒー飲んだら送って行くから…」
カップを二つ並べてテーブルに置き、智の顔を見上げた。
瞬間、俺の顔が凍り付いた。
「どう…して、それを…」
智の手に握られていたのは、彼女が置いていったエコー写真で…
俺は智の手からエコー写真を奪い取ると、クシャッと丸めてゴミ箱に向かって放り投げた。
「これは…なんて言うか、その…」
『なん…だ…』
「えっ…?」
『そうだったんだね…』
「何…て…?」
どうして…
さっきもそうだったけど、いつも読み取れる筈の動きが、今日は全く読み取れない。
俺は智の手を取ると、ソファに座るように促した。
そして一つ息を吐き出すと、智の目を真っ直ぐに見つめた。