君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第11章 pesante
シャワーを浴びてもちっともスッキリしない気持ちと頭を抱えたまま、彼女の匂いが染み付いたシーツとベットカバーを全て外し、ゴミの袋に突っ込んだ。
マンションのゴミ置き場に投げ入れた後で、替えのシーツが無いことに気が付いたが、彼女の痕跡が残る物は全て、例え目に見えない物であろうと、残しておきたくなかったから、後悔はない。
それでもまだ鬱屈とした物は胸の底に残っていたが、部屋に戻り、リビングのドアを開けた瞬間に鼻を擽った香ばしいコーヒーの香りを嗅いでいると、幾分かは気持ちが晴れたような気がした。
俺は智の番号が表示されたままのスマホを手に取ると、電話帳の中から彼女の番号を削除した。
未練があったわけじゃない。
ただ、八年もの間、一筋に彼女だけを想い続け、一度は真剣に結婚まで考えた相手の名前を消すのは、どうしても偲びなかった。
悪い思い出ばかりじゃない、寧ろ彼女とは良い思い出の方が多かったから…
いつか時が過ぎれは、以前のような関係な戻れるかもしれない、なんて甘い考えが、もしかしたらあったのかもしれない。
でもそれももう終わりだ。
淹れ立ての熱いコーヒーを一口啜ると、口の中にコーヒー特有の苦味と、微かな酸味が広かった。
「苦っ…」
智は美味いと言ってくれたが、やっぱりコーヒーはブラックより、少し甘めの方が俺的には好みだな。
カップに残ったコーヒーを飲み干し、エアコンから吹き出す冷風が直撃するソファに腰を下ろす。
DVDプレーヤーを起動させ、リモコンの再生ボタンを押すと、画面に映し出される男同士の絡み合う姿と、スピーカーから溢れるまるで男とは思えない喘ぎ声。
正直、見ていてあまり気持ちの良いモンでもないし、身体だって一切反応することはない。
そこに映る二人に、智と自分を重ね合わせたとしても、それは同じで…
「女には反応すんのに、智とは…」
俺は深い溜息を吐き出すと同時に、女性しか愛せない身体に生まれついてしまったことを、恨めしく思った。
…って、こんなこと言ったら、智や松本は怒るんだろうけど…
彼らは、その“普通”の世界で、“普通じゃない”自分に藻掻き、苦しんできただろうから…