第2章 燃えたおつきさま
松田陣平。歳は三十手前……っていうと地味に不機嫌になるから、二十代後半と言っておこう。
自称元警察官で、警備なんたら爆発物処理班というところに所属していたらしい。
本人いわく、最期は信頼する仲間に全てを託し、爆弾とともに人生の幕を閉じたのだとか。あまりその話をしないから、私も深くは訊いてないけれど、「約束はちゃんと守れよ」とちょっぴり悲しそうに言っていたのが強く記憶に残っている。
さて、そんな彼とは、実は私が中学生の頃からの付き合いである。
親の仕事の都合で米花町に来る前は、私は長野の田舎の方に住んでいた。
田舎ではよくありがちな、あの出来上がったコミュニティの中、小学校でやらかした私は中学生になっても周りから嫌煙され、寂しい子ども時代を送っていた。
そんな時だ。松田さんと出会ったのは。
「暗いガキだな」
ぼんやりと、皆が帰った公園で一人ブランコを漕いでいた日。隣のブランコに跨ってこちらを見ていた松田さんは、私に視えていないと思って、開口一番そんな失礼なことを言ってきやがった。
その時にはもう幽霊と話してはいけないと分かっていたから、気付かないふりをしようと思ったけれど。なんとなく。そう、本当になんとなく言い返してみた。
「……ロリコンヤクザの幽霊」
「泣かすぞこのガキ」
――と、まあ。こんな感じで私と松田さんは出会ったわけだが、あれから三年。米花町に引っ越してきてからも、彼はずっと私と一緒に過ごしている。
「松田さんって私のこと大好きだね。やっぱりロリコンヤクザ、」
「まだ掃除したりねぇか?」
「スミマセンデシタ」
三年経った今でもこうして軽口を叩き合う仲の松田さんは、誰よりも私の心の支えでいてくれた。本人には絶対に言ってやらないけれど、こうして松田さんが米花町までついてきてくれて本当に安心しているのだ。
彼はまだまだ幽霊に対して無知だった私に色々教えてくれた、恩人みたいなもの。
あのインチキ霊能者の霊感発光説が嘘だと教えてくれたのも彼だし、いまだに松田さんからは学ぶことは多い。
ただ、口の悪さは絶対に真似するべきじゃないと思っている。松田さんだってちょっと私が暴言を吐くと「俺みたいな話し方すんじゃねぇ」と諭してくるから、本人も自覚はあるらしい。だったら少しは直す努力をした方がいいと思うけど。