第2章 燃えたおつきさま
その黒く焼け焦げた瞳の奥に感じるのは、敵意じゃない。しかし自分の心に響く声は「聞きたくない」とはっきり告げていて、ぎりぎりと握り潰されるような息苦しさが募る。
――でも、飲まれてなんてやらない。
どれだけ強い想いであろうとも。どれだけ激しい感情だろうとも。この真っ黒な幽霊の思うようにはしてやらない。この幽霊は、この人は、コナンくんの心のうちを聞くべきだから。
なんてことないように振る舞い、お団子の串を咥えて縁側に座り込む私の隣で、いまだに落雁を齧っていたコナンくんは、かりっと最後の欠片を食べ終える。そうして指先についた粉を払い落とすと、その手をゆっくりと膝の上に下ろした。
「僕が送り火をあげたい人は……すごく悲しくて、優しい人、だったんだ」
ぽつりぽつりと語られる、その人のこと。
灯篭の光で白く反射したコナンくんの眼鏡の下の表情は窺い知れないが、僅かに見える口元には、嘲笑が貼り付けられていた。
「大切な人のために、全てを投げ捨てる覚悟を持って、たとえ自分が傷つき、報われなくとも想い続けられるような、人」
……幽霊は、自分の死をコナンくんに背負わせてしまったと言っていた。
人を殺した後ですら誇りを感じていた“彼”が、唯一後悔の念を抱き、この世に曖昧な形のまま留まり続ける理由となったのは、この儚くも逞しい少年だ。
自身の死を背負い続ける少年の傍に佇み、ひたすら見守り、その傍で後悔をし続ける……だからこそ、あの影のような姿だったんだろう。
「僕ね、その人に謝りたいんだ」
影が、少しだけ薄くなる。
ほんの僅かな差だが、薄れゆくモヤの下から現れた指先は「真っ白」で、美しくしなやかなもの。
「それから、絶対に忘れちゃいけないことを教えてくれた」
揺れる、揺れる。
肌の上を滑るかの如く吹く風に攫われるように。
「僕が――俺が、探偵として。大切なことを、教えてくれたあの人に。ありがとうって、伝えたいんだ」
にぱっという効果音がお似合いな笑顔をこちらに向けたコナンくんに、つられて笑ってしまう。今さっきまでの哀愁漂う空気はどこへやら、歳相応のとても“子どもらしい”姿に眉を下げる。
これ以上は内緒だよ、と。一瞬見えたコナンくんの本当の表情を頭から振り払うようにして、咥えていた串をお皿の上に置いた。