第2章 燃えたおつきさま
「ねー、まっつん」
「誰がまっつんだ」
「暇だねえ」
「……運動でもしてきたらどうだ」
綺麗になったくれ縁に座り、ぼんやりと庭を見つめる私に松田さんは呆れたようにため息を吐く。
彼は生前警察官と言うだけあり、よく私に運動をするように勧めてくるのだ。いつ何があるか分からないから、自分の身を守れるぐらいにはなっておけ、と。その言い分は分かるけど、さすがに毎朝五キロのランニングはやりすぎだと思う。
「昨日寝る前にちゃんと腹筋したから筋肉痛」
「たかが五十回だろ。貧弱な奴」
「うるさいなあ」
腹筋五十回って結構だと思うんだけど、と愚痴たれながら外に放り出していた足を引っ込める。そして膝を立てて体育座りをすれば、松田さんはちらりとサングラスの向こうから私を一瞥した。
「友達、まだ出来ねぇのか」
「突然心抉ってくるのやめてもらえます?」
「出来ねぇんだな」
「あー、うるせーうるせー」
どうせ寂しい人間だよ! と叫びながら膝に顔を埋めると、松田さんの鼻で笑った音が聞こえる。グラサン割ったろか。
「俺も人のこと言えた義理じゃねぇが、友達はいた方がいいぜ」
「松田さん友達少なそう」
「多くはねぇけど、親友はいたな。ぼっちの桃と違って」
「ぐう……」
にべもない松田さんの反論に、私はぐうの音しか出ない。
確かに生まれてこの方十八年、友人は幽霊だけで生きている友人に至ってはゼロだ。
さすがにそろそろやばいとは思うが、今更友達の作り方など人に訊ける筈もない。というかそもそも訊く相手もいないわけで。一度松田さんに訊いてみたら「拳交えりゃ一発だ」とかいうバトル漫画みたいな答えが返ってきたので、今後一切、彼に友人関係について相談しないと心に決めた。
「学校はどうなんだよ?」
「……微妙な時期に転校したし、もうグループ出来上がってて入りにくい」
「気にしすぎだろ」
「そりゃするよ」
私だって、出来れば普通の女子高生みたいに友人と遊びに行ったり、流行りのタピオカ飲んだりしたい。
だけどどうしても私は他の皆とは違うという意識があって、もしまた小学校の頃みたいに幽霊が視えることがバレて――というよりかは一人で誰かと話しているところを見られたりして――信じてもらえずに周りから避けられるようになったらと思うと、二の足を踏んでしまう。