第2章 燃えたおつきさま
守護霊というより、実の親より親らしい松田さんを思って遠い目をしていると、隣でお茶を啜っていた住職さんが「おや」と声を上げた。
それにつられて意識を引き戻すと、少し先からこちらに走ってくる小さな影……コナンくんを視界におさめる。そしてその後ろからふらりとついてくるあの幽霊を視て、ちょっとだけホッとした。ああ、良かった、来てくれた。
送り火のことを話すのはいつも私の家でだったから、松田さんを恐れてその場にいなかったこの幽霊は、今日なんのためにここにコナンくんが来たのかすら知らないだろう。幽霊とはいえ、自身のいない場所でのことはさすがに知りようがない……筈、だ。
だけどもし、今日コナンくんがお寺に来た理由が自分のために送り火をあげることだと知れば、姿を現さない可能性もあった。だから、こうしていつも通りといえばいつも通りに小さなコナンくんの後ろに立ち、相変わらずの焦げ付いた匂いの幽霊に胸を撫で下ろしたのだ。
「お待たせ! 桃お姉さん、住職さん」
「こんばんは、コナンくん」
「こんばんは。早かったね、まだ七時半だよ」
「花火がもうすぐ始まるから、人が凄くて。ごった返す前に抜けてきたんだ」
米花町で一番大きなお祭りということもあって、お盆祭りに集まる人の数は馬鹿にならない。特に花火が上がる頃には村一つくらいなら余裕で出来そうな人集りで、毎年会場は埋め尽くされるらしいのだ。
そうなると抜け出すのは中々困難で、特にコナンくんみたいな小さな子は誰かに踏まれたり蹴られたりする心配もある。だからその前にやってきた、というコナンくんの頭には私と色違いの仮面ヤイバーのお面が着けられていた。
「とりあえずお団子一緒に食べよう」
「あ、うん」
「熱いお茶もあるけど、冷たいのにするかい?」
「うん、僕冷たいのがいいな!」
私がすっとお皿に乗ったお団子をコナンくんの前に出し、すかさず住職さんがお茶の用意をする。あまりに無駄のない見事な連携プレーに、コナンくんはちょっぴり驚いたように目を丸くしながら「本当に知り会ったばっかりなの?」と呟いている。それは私も思った。おそらく前世からのズッ友。やったね、私の初めての生きた友達ゲット!
どこかのヤクザ幽霊が鼻で笑ってそうだけど、住職さんだって立派な生きた人間である。幽霊と縁近いということはあるが。