第2章 燃えたおつきさま
まあそういう経緯があって、お寺で送り火をあげることになったのだが――仲良くなった住職さんは「最近の人は送り火を知らない人も多いからねえ」と少しだけ嬉しそうにしながら承諾してくれた――問題は、あの影だ。
松田さんがいるからか、あの後何度かウチにコナンくんが遊びに来ている時は一度も姿を見たことがない。けれども外でばったり出会したりすると、そこには必ず憑いてる。
相変わらずちらちらと視線を寄越す私にも無反応だけど、松田さんの気配が多少なりともするのか、ちょっとだけ距離を置かれている気がする。松田さん、何したんだ。
そんな松田さんは「何があるか分からないから俺も行く」と早速モンペ発動をしていたが、松田さんが来るとあの影が姿を現さない可能性が大いにあるので必死になって説得した結果、なんとか家で留守番してもらえることとなった。暫くは父親の煙草がこっそりなくなることだろう。私の手によって。すまんな父よ。
まあお寺からそう自宅も離れてはいないし、なにか異変を感じたらすぐに松田さんがすっ飛んで来てくれるらしいので、私は集合時間より少し早めにお寺に行って、住職さんとお団子を食していた。
このお寺は地元民なら知っている、くらいの知名度らしく、今日はお盆祭りがあるため私達以外に人はいない。住職さんいわく「意外とここからよく花火が見えるから、穴場スポットなんだよ」らしいけど、花火のためにお寺にわらわら来られるのも困るので秘密だよと笑っていた。なんともお茶目な住職さんだ。
「でも、お盆祭りで花火なんて珍しいですね。夏祭りとは違うのに」
「この辺りには川がないからね。焼き文字の出来る山もないから、それなら送り火を空に打ち上げようってわけさ。ご先祖様が帰っていくのも空だからね」
「そりゃまた粋ですなあ」
「そうですなあ」
お団子とお茶を啜りながら、住職さんとそんな間の抜けた会話をゆったりと交わす。
花火を送り火とすることはそう珍しいことではないらしく、あの隅田川花火大会も元は鎮魂の意味もあったそうだ。今ではすっかりカップルの巣窟となっているが。……私? 友達いないのに恋人とか出来るわけないだろ。文字通り「まずはお友達から」だ。
ちなみに昔、松田さんに彼氏が出来たと嘘を言ったところ、がっつり据わった目でどこのどいつだ! と言い募られた。ウチのモンペこわい。