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【名探偵コナン】墓標に水やり

第2章 燃えたおつきさま




 そんな前世のズッ友(仮)な住職さんには幽霊を視る力はないらしい。

 けれど、幽霊を祓う力は本物で、あの松田さんが近寄るのを拒否したくらい強力な力の持ち主である。いわく、出来ればあの坊さんには関わりたくねぇ、とか。確かになんかもう悟りの境地を開きすぎている感はあるな。名前も「保都家」で「ほとけ」だし。


「いただきます!」
「はい、どうぞ好きなだけお食べ」
「ありがとう、住職さん!」


 アルカイックスマイルでコナンくんにお茶とお団子、それから様々な形をした落雁も。トウモロコシ型なんて初めて見たから、若干テンション高めで頂いた。うん、砂糖。一つで十分な甘さだ。
 ばりぼりごりと、おおよそ女の子が立てていいわけない音とともに落雁を噛み砕く。……甘い。

 住職さんが送り火の用意をしてくれるとのことで、私とコナンくんはおがらに火をつけるのが仕事だ。だから準備をしてくるよ、と言って席を立った住職さんがいなくなると、自然とその場には私達だけが残された。


「……僕、迎え火してないけど大丈夫かな」
「大丈夫、大丈夫。私もしてないし」
「結構桃お姉さんって結構テキトーだね」
「はは、バレちゃったか」


 蓮の花の形をした落雁を齧りながら言うコナンくんに、ひらひらと団子のなくなった串を顔の横で揺らしてみせる。
 送り火なんてしなくたってその人は君の傍にいるよ、なんて。言ってあげられたらいいのだが、こればっかりはどうしようもない。だから笑って受け流すと、コナンくんはいつもより大人びた表情でくつりと喉を鳴らした。

 ここ数日、コナンくんはウチを気に入ってくれたらしく、ことある事に訪ねてきていた。そうして接するうちに、この少年はどうやら他の子どもよりもずっと、大人のような考え方をするのだと知った。

 そんなコナンくんが、背負うことになった人は。


「――コナンくんが送りたい人ってさ」


 ぴくり、黒い影が僅かに震えたのが視界に映る。


「どんな人だったの?」


 肉の焼ける匂いが、一層辺りに広がる。

 しかしそれに気づいているのは私ただ一人で。あの幽霊がはじめて、私に対して反応を見せた。

 そこにあるのは敵意や悪意に連なるものじゃない。だから怖気付くことなくコナンくんを通してその影を視れば、漸く黒の中に揺れるポニーテールが視えた気がした。


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