第2章 燃えたおつきさま
「……くだらねぇ、な」
私が夢の中で見たことを、同調することで感じたことを全て松田さんに告げると、彼は吐き捨てるようにしてそう言った。
さすがにその物言いには文句を言おうとしたけれど、しかし見えた表情が苦しそうに歪められていたことに気づいて、心がぐるりと渦巻く。
……松田さんの考えていることは、いつも分からない。彼は想いを隠すのが得意だから、私が同調してその心を覗くことだって出来やしないのだ。けど、あの幽霊の話を聞いて、彼は何かを懐かしむみたいに遠くを見つめた。
「まあ、そんなくだらねー幽霊のことはどうでもいい。けど、桃がどうにかしたい、ってんなら、知恵くらい貸してやるよ」
「……イケメンのツンデレとか私には需要ないから」
「あ? 誰がツンデレだよ」
「松田さん。あ、でも私にはいっつもデレデレだっけ――いっだあ!?」
ここには広辞苑がないから調子に乗って言うと、何処からか文庫本が飛んできた。って、おい! どこの誰から盗ってきた!
「そこの公園のベンチに置いてあった」
「いいから戻しなさい」
「はあ? 誰かに見られたらまずいだろうが」
「絶対おかしいよなあ!」
何言ってんだ、という顔をする松田さんを睥睨しつつ、頭を直撃した文庫本を拾い上げる。『寺の住職おすすめ精進料理レシピ』と書かれたそれに思わず「いやどんな本だよ」とツッコミを入れてしまう。いやどんな本だよ。
気になってぺらぺらと中を見てみると、普通に美味しそうな精進料理が並んでいて、ぐうとお腹が鳴った。美味そう。
……って、もうこんな時間か。そりゃお腹も空く筈だ。
コナンくんと別れてから随分と時間が経っていたらしい。そろそろ両親が帰ってくる頃だろうし、今日はデパ地下でお弁当を買ってきてくれると言っていた。
お腹は空いたし、清めの塩も置いてきたままだ。あれが親に見つかって捨てられでもしたら面倒だから、二人が帰ってくる前にさっさと帰宅することにしよう。
「――あ」
また清めの塩をもらいにお寺に行かなきゃならなくなるのも嫌だし、とレシピ本片手にベンチに下ろしていた腰をあげる。と、その時。ふと頭に浮かんだ名案に、漫画みたいに手を打った。
「ねえ、松田さん。私天才かもしれない」
「それはねぇよ」
「にべもない!!!」