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【名探偵コナン】墓標に水やり

第2章 燃えたおつきさま




「俺は、あの子に。あの、まだ小さな探偵くんに。俺の――俺の死を、背負わせてしまった」


 止めてほしい、と思っていた。自分のこれから犯す愚行を、誰かに止めてほしいと。

 だからこそ、お父さんの名前であの眠りの小五郎と名高い毛利探偵を月影島に呼んで。俺が果たそうとしていた復讐を止めてくれるかもしれない、唯一の希望を残した。

 自分でも、矛盾しているとは思う。なんたって、ここまでくるのに血が滲むなんて言葉じゃ生ぬるいくらいの努力をしてきた。あいつらに、お父さんを殺した奴らに復讐するために。その努力を自分自身の手で潰そうとしていたのだから、傍から見れば今の俺は矛盾どころか滑稽だろう。

 でも、いざ復讐をやり遂げた時。これで良かったんだと、そう思えた。

 俺の手はもうあいつらと同じ、血みどろになってしまった。それでも不思議と心は晴れやかで、漸く全てが終わったと……そう、思っていたのに。


「お父さんが残したこの楽譜にも書いてあるじゃない。『成実、お前だけは全うに生きてくれ』ってね!」


 煤だらけになりながら、この炎の海を駆け抜けて来たんであろう少年の口から告げられた言葉に、思わず嘲笑がこぼれた。


「はやく……それを、知りたかったよ」


 後悔してしまった。


 ――これだけの推理力を持つ少年に、これから自分の死を背負わせてしまうことを。


 自分の身の危険を顧みず、お父さんが残した暗号を届けに来てくれた小さな探偵くんは、きっとこの先ずっと俺の死を忘れはしないんだろう。
 自分を責めてしまうかもしれない。彼の未来を曇らせてしまうかもしれない。それでも、もう……もう何もかもが遅かった。

 なかった筈の後悔の粒が、少しずつ心に積もり積もっていく。


(まるで、呪いみたいだな)


 それもあながち間違いじゃないかもしれない。
 そんなことを考える自分を嘲るようにはっと短く息を吐き、込み上げる澱を無理やり飲み込んだ。

 纒わりつく赤い業火に身を焼かれながら、ゆっくりと鍵盤を押し込む。大切な人が、お父さんが、最期にそうしたように。朽ち果てるその時まで、俺は弾き続ける。


「ありがとうな、小さな探偵くん」
 ――ごめんな、小さな探偵くん。


 俺を救おうとしてくれたあの不思議な少年に捧げる、この悲しき「月光」を。


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