第2章 燃えたおつきさま
「んで? どうするつもりだよ、あんなこと言って」
コナンくんに一週間後のお盆祭りの日、一緒に送り火をあげようと約束をした後。もうすぐ暗くなるし帰らなければならないと言った彼を駅前まで送った帰り道、隣にいた松田さんが呆れを含んだ声でそう言った。
「どうって。送り火あげるんだけど」
「家じゃ無理だろ。そういうの、桃の親嫌いじゃねぇか」
「うん、まあ、私のせいでね」
昔、私が幽霊を視えることを隠していなかった時期のこと。両親はそうやって誰もいない場所に話しかけたり、一人で誰かと遊んでいる様を見ていたから、幽霊関係のことを忌避するようになってしまったのだ。
それはこのお盆も例外じゃなく、田舎に住んでいた時は周りとの付き合いもあって渋々迎え火も送り火もやっていたが、それも米花町に引っ越した今ではその付き合いもないわけだし、率先してやるとは思えない。
「公園でやったら通報されるかな?」
「花火じゃねぇんだから、通報されるに決まってんだろ」
「……庭でコソッと」
「すぐバレる」
にべもない松田さんの返しに「くそう」と呟き、スマホを耳に当てて、電話をしているふうを装いながら砂利道を歩く。
「そもそも、あの幽霊のために桃がそこまでしてやる義理も……なくもない、けどよ」
「多分命救われたし」
「でも、それだけじゃねぇんだろ」
なんでもお見通しだ、というようにこちらを見た松田さんに思わず苦笑してしまう。確かに命を救われたというのは大きい。それにまだ小さなコナンくんが抱えているものを、気休めだとしても、少し軽くしてあげられたら、と思ったのもある。けど、それ以上に。
「夢を、見たんだ」
轟々と燃え盛る中で、ある曲を引き続ける人の。
「その人はね、後悔してないって言ってた。自分の犯した罪に対して」
復讐、と言っていただろうか。
自分の大切な人を奪った人間たちへの復讐をやり遂げ、後悔はしていないと。むしろ誇りに思うとさえ言っていた。
そんな人が、唯一後悔していることが、一つだけあるのだと。
夢、という単語に過剰に反応を見せた松田さんは、私が魘され、泣いていたことを思い出したらしい。「それで」と、促す声はいつもよりずっと低かった。
「――自分の死を背負わせてしまった、って言ってたんだ」