第2章 燃えたおつきさま
「その人にとっての火は罪を贖うための業火かもしれないけど……ううん、だからこそ、送ってあげたいんだ」
――罪を犯した人間の成り果てが。黒に染ったあの影が。辿り着く先は、ただ一つ。
たとえ誰かがあの影のために送り火をあげたとしても、行く先は変わらず、今回のように、死後に人助けをしたところで犯した罪は消えてくれやしない。所謂天国と呼ばれるような場所には、どう足掻いたって行けやしないのだ。
それならば、どんな姿であろうとこの世に留まる方が苦しまなくて済むんじゃないか。
(――なんて、言えるわけない、か)
コナンくんが言った、送り火をあげたい人というのがあの影のことだとは限らない。もしそうだとしても、その人は天国には行けないんだよ、なんてことを言うほど私も鬼畜ではいないつもりだ。
それに。コナンくんの瞳に映る夕日のように真っ赤な炎に包まれ、焼け朽ちていくグランドピアノが奏でるあの朧気な音楽は。白と黒で彩られた鍵盤の上で踊る曲は、まるで葬送曲のようだった。
その葬送曲の中で聞こえた、あの台詞も。
夕日の色によって、次々と思い起こされる記憶に視界が霞んだ。
「……あげよう」
「え?」
「あげようよ、その人に。送り火をさ」
突然そう言った私に、コナンくんは大きな目を更に見開き、きょとんと丸くする。
松田さんも私の発言に呆れたように首を振っているが、彼とは三年の付き合いだ。こうなった私が止まることがないのはよく知っているのだろう。そんな態度は取るものの、なにか苦言を呈してくることはなかった。
「うーん、そうだな。お盆祭りがある日にどう?」
「え、いや、桃お姉さん?」
「あー、でも夜だとおウチの人が心配するかな」
「それは大丈夫だけど……本当にあげるの?」
「うん。だって、送ってあげたいんだよね、その人のこと」
知り合って間もない、しかも決して目覚めがいいとはいえない事件がきっかけで知り合った相手に、コナンくんが何故この話をしてくれたのかは分からない。けれど、たとえそれがただの気まぐれだったとしても、その想いを聞いたのなら、無視なんて出来ないのだ。
「だったら送ってあげよう! 自分の気持ちと一緒にさ!」
だって、私には。生きているコナンくんの声も、死んでしまったあの影の声も、聞こえるのだから。