第2章 燃えたおつきさま
ごくり。神妙な面持ちのまま、やけに大きく響く喉を鳴らす音。
いざとなれば松田さんに広辞苑でコナンくんの頭を強打してもらって、記憶を飛ばすしかない――なんて、私が犯罪スレスレのことを考えていると。
「その白い粉ってなに?」
「……え?」
そう言って指をさしたコナンくんの視線の先には、小瓶いっぱいに詰まった白い粉……というと怪しく聞こえる、清めの塩。
コナンくんをウチに招き入れる前にお寺に行ってこれを貰いに行っていたから、そのまま居間の机に置いていたことをすっかり忘れていた。
「あー、これは塩だよ」
「塩?」
「そう。ウ、チはその……霊的なものとか結構信じてる家でね。たまにこうしてお寺に清めの塩を貰ってくるんだよ」
まさに口からでまかせだが、嘘をつくのが奇跡的なまでに苦手な私にしてはよくやった方なんじゃないか。松田さんは「まじかこいつ」みたいな顔をしてるけど、私にしてはよくやった方だ。だからちょっとその面やめようか、グラサン。
「へえ、それで盛り塩とかするの?」
「そうだよ。余すことなく全ての部屋に盛ってやるつもりだよ」
「おいこら不良娘」
真顔で拳を握りしめて力説する私に、こめかみに血管を浮かせた松田さんがヤンキーも驚きの首の曲げっぷりを見せ付ける。しかしコナンくんの前で何か言うことも出来るわけもなく、にっこり笑顔を貼り付けてやった。ざまあみろ。
そうして私と松田さんが静かに冷戦を繰り広げていると、コナンくんは興味深そうに小瓶に入った塩を見つめている。まさか欲しいとか? と訊くと、彼は苦笑しながら首を振った。
「そうじゃなくて、もうすぐお盆でしょ? ご先祖様的に盛り塩ってどうなのかなって」
「そこはほら、気合いで」
「気合い」
「そう気合い」
私のご先祖様が、私のように霊感のある人だったのかは知らないが、今までお盆の時期に現れたことがないのだから、盛り塩くらいしたってきっと大丈夫だろう。
私が知らないだけでどこかに帰ってきていたのかもしれないけれど、きっと大丈夫。だってご先祖様だもの。気合いでなんとかしてくれるよ。
「……でもそっか、もうすぐお盆かあ」
そんなテキトーなことを子孫が考えているとは露ほども知らないだろうご先祖様を想って泣いている良心を無視して、清めの塩入りの小瓶を手に左右に振った。