第2章 燃えたおつきさま
言葉を失った、とはまさにこんな感じなんだろうか。
私の台詞にぴくりとも動かなくなってしまったコナンくんに、どこか冷静な頭でそんなことを考えつつも、慌てて両手を少年の顔の前で振る。
「お、おーい、コナンくん?」
「……うん、そうだね、桃お姉さんの言う通りかもしれない」
気丈に振舞おうとしているのか、くしゃりと顔を歪めて笑ったコナンくんは、やっぱり小学生になんて見えなくて。
その姿はまるで何かを大きなものを一人で背負い、少しずつ押し潰されてしまいそうな危うさを秘めていた。
――背、負う?
一体どれだけの人の死を見たらこうなるのだろうか。
小さな少年の、小さな手の中に抱えられた想いが垣間見えて、胸が強く締め付けられる。
しかし、ふと。自身の言葉に、何かが頭を過去った。なんだろうか、最近どこかでそんな話を聞いた気がする。記憶の箱の隅に引っかかり、なかなか思い出せないそれに、なんとも言えぬ気持ち悪さから眉根を寄せる。
そんな表情を見たコナンくんは、私が別のことで顰めっ面をしたと思ったんだろう。「でもね!」と、先程の耐えるような笑みとは違う、向日葵が咲く様子を連想させる明るい笑顔を浮かべた。
「僕には皆がいるから大丈夫! 心配してくれてありがとう、桃お姉ちゃん!」
「あ、う、うん」
あまりのコナンくんの勢いに圧されてしまい、言われるがままに頷く。やってから「しまった」と思ったけれど、一度納得した素振りを見せてしまっては仕方がない。それ以上その件について訊くことは出来ず、曖昧に笑って麦茶で全てを胃の中に流し込んだ。
「……ねえ、桃お姉さん」
「どした?」
「今度は僕が質問していい?」
そうしてなんとも言えぬ気まずさの中、ひたすらに麦茶を飲んでいると、半分ほどなくなったオレンジジュースの入ったグラスを眺めながらコナンくんが呟く。
今の流れでの質問。いい予感なんてするわけもなく、思わず「えっ」と渋ってしまう。
「あ、あー……うん、はい、どうぞ」
「やったあ! あのね、ずっと気になってたんだけど」
「うん……」
まるで死刑宣告を待つ囚人の気持ちになりながら、コナンくんの言葉の続きを待つ。
これでもし、お姉さんって幽霊視えるの? とかだったら、間違いなく麦茶を噴くだろう。