第2章 燃えたおつきさま
――殺した側の、人間の成り果て。
そんな予想だにしていなかった事実に、今度こそ息が止まった。
コナンくんが「桃お姉さん?」と怪訝そうに名前を呼んでいるが、しかし返事は出来ない。
今まで出会ってきた幽霊の中には、勿論悪意を持つ者もいた。私をそちら側に引きずり込もうと、わざと私を危険な目に遭わせたり、強い悪意に意識を乗っ取ろうとしたり。
昔はよくそのせいで怪我が絶えなかったが、今はもう分別のつくお年頃。そんなことも大分と数が減ったが、全くないというわけじゃない。
本当に、善人にしか見えないような幽霊が、実は私を取り殺そうとしていたりすることもあるわけで、その度に松田さんが鬼の形相で悪霊たちを消し飛ばしてくれた。最近はそろそろ松田さんを私の守護霊だと言っていいんじゃないかと思っている。私が知っている中で、松田さんほどの力を持つ幽霊はいないのだから。
さて、話が逸れたが、前にも言った通りそういう私を騙そうとする幽霊の場合も、厄介なことに姿形は生きている人間と大差はない。反対に、何か一つのことに執着し、意識が執着に飲まれている幽霊はああいう影のような姿になることが多い。
ただ私は、それだけだと思っていた。意識が曖昧だから、ああして自分の姿さえも生前のようには保っていられないのだと、そう思っていた。しかし、松田さんの言葉で、それだけではないのだと気づいてしまった。
(……罪を犯した人間も、そうなる)
これもきっと個人差はあるんだろう。だけど、あの幽霊は。コナンくんに取り憑いてる幽霊は、人を殺した――そんな罪で、あの姿になっているのだとしたら。
「……コナンくん」
「ん?」
「今まで色んな事件に巻き込まれたって言ってたけどさ」
加害者が死んじゃった事件とかあった?
そう言いかけて、寸でのところで飲み込んだ。
言ってどうする。こんなこと訊いたって、怪しまれるだけだろうに。どうして? なんて純粋な目でこの小学生に問いかけられても、私は絶対に誤魔化せる自信などない。
「……そ、れでもやっぱり、心のどこかでは傷ついてると思う、な」
しかし言いかけた言葉の代わりに次ぐそれが思いつかなくて。咄嗟にそんなことを言えば、コナンくんは牛乳瓶の底のように丸い眼鏡の奥の、美しいサファイアの瞳をこれでもかと瞠った。