第2章 燃えたおつきさま
何故だか私以上に動画の件を憤っている松田さんを横目に、居間で行儀よく正座して待っていたコナンくんの元へ、氷の入ったオレンジジュースと麦茶のグラスをお盆に乗せて急いで行く。
「はい。オレンジジュースで良かった?」
「うん! ありがとう、桃お姉さん」
「いえいえ」
本当に礼儀正しい子だなあ、と両手でグラスを持ってストローからオレンジジュースを吸い込むコナンくんに感心する。私がコナンくんくらいの歳の頃は一体何をしていただろうか。こんな大人しく礼儀正しくはなかったと思うけど。
そんなことをぼんやり考えながら、自分の分の麦茶に口をつける。暑い外から帰ってきた直後だから、冷たいそれが喉を伝って胃に流れて行くのがよく分かった。
「……コナンくんは、あの後、大丈夫だった?」
「僕? 僕は大丈夫だよ!」
「本当に? だって君くらいの子があんなの見ちゃったら、夢に出てきたりしない?」
私もどんな内容かは忘れたけど、泣いてしまうくらいの夢を見たというのに。私よりも一回りも歳下のコナンくんが平気だったなんて、到底信じられない。
無理してるんじゃないの、と暗にそういう私に、コナンくんは結露のせいで濡れた指先をじっと見つめながら、小さく苦笑をこぼした。
「僕、昔からああいう事件に巻き込まれやすくって。だから……こんな言い方はよくないけど、慣れちゃったんだ」
淡々と、なんの色も乗せていない表情で呟いたコナンくんに、思わず息を飲んだ。
こんな小さな子が、という思いも勿論ある。ただそれ以上に、コナンくんの台詞であの黒い影を思い出したからだ。
昨日あの幽霊がコナンくんに憑いていると知ってから、ずっとこの子にどうしてあんな未練や後悔を塗り固め、姿すら真面に保てないような幽霊が取り憑いてるのかと不思議だった。しかし、あの幽霊もまた巻き込まれた事件のうちの被害者だと考えれば筋は通る。
「違うな」
そんなふうに私が一人で納得していると、不意に今まで黙り込んでいた松田さんがふとこちらを見て言った。
まるで私の心を読んでいたかのようなタイミングに目を丸くしながら、何が? と音もなく問いかけると、彼は僅かに目を伏せ、いつもよりずっと鋭さ増した光を宿す。
「あれは被害者なんかじゃねぇ。むしろその逆――殺した側の、人間の成り果てだ」