第2章 燃えたおつきさま
「まあその高木刑事の件は別として、心配してわざわざここに来てくれたことだし。飲み物くらいなら出せるから、ウチに寄って行かない?」
「いいの?」
「勿論。コナンくんにはお世話になったからね」
あのサラリーマンの自殺は、この米花町では恐ろしいことに、そう大きな事件ではない。そのためテレビなどに取り上げられることはなかったけれど、このインターネットが普及したネット社会では、既に多くの動画がSNSなどに上げられていた。
そこには遺体の傍にいた私の姿が映っているものもあったが、私はその頃必死に飲まれまいとして俯いていたし、コナンくんが警察が来てすぐに別の場所に移動させてくれたこともあったため、幸いなことに顔が映っているものはなかった。まあ、私をよく知っている人が見れば分かるかもしれないけれど、生憎私に親しい友人はいない。ああ、そうだよ、いないんだよ! おい、もじゃワカメその顔やめろ! 哀れむんじゃない!
「あー……でも、幾つか顔が映ってたみたいだよ?」
「えっ、本当に?」
「うん。そこまで拡散されてないから大丈夫だとは思うし、僕の方から警察の人に削除依頼出して貰えるようには言っといたんだけど……」
「ああいうのは一回で回るとキリないもんねえ」
これは困った。
私が探した中では顔が出ているものはなかったのだが、コナンくんが言うにたくさんの動画の中に埋もれてしまっているだけで、あるにはあるだとか。……まあ、埋もれてるなら別にいいか。そのうち風化していくだろう。
「その件は警察に任せるとして、とりあえず中に入ろっか――!?」
「どうしたの?」
「えっ、あっ、いや、なんでもないよ! 顔の前に虫が通ったからびっくりしただけ!」
若干死んだ目をしながら立ち上がり、コナンくんを中に促す……と、その前に立っていた松田さんが、世にも恐ろしい表情でこちらを見つめていた。なになになにかした!?
「は、はい、じゃあどうぞ」
「お邪魔します!」
内心めちゃくちゃに焦りながら、そんな松田さんが視えていないコナンくんに不審に思われないようさっさと話を逸らして家の中に入る。
小さな手をランドセルの肩紐に添えて敷居を跨ぐ姿を眺めつつ、おそるおそる松田さんの方を見る。
「……後で動画、探せよ」
「アッ、ハイ」
私に怒ってるんじゃなかった。紛らわしい。