第2章 燃えたおつきさま
「こんにちは! 桃お姉さん!」
「……こんにちは?」
親方! 空からサラリーマンが! 事件のメンタルリセットをするために学校を休むこと二日目。
なんだかんだと言いながら、清めの塩を護身用として持つことに賛成してくれた松田さんに付き添われ、お寺に行った帰り――お寺に着いた途端、松田さんは光の速さで先に家に帰った――ランドセルを背負ったコナンくんが何故かウチの前で待っていた。
コナンくんの後ろには、あの幽霊の代わりに腕を組んで仁王立ちしている松田さんがいて。嫌な予感しかしないコンビに頬が引き攣る。
「コナンくん、だよね。どうしてここに?」
あくまでコナンくんに問い掛けているふうを装いながら、視線だけで松田さんに「あの幽霊は?」と訊ねる。すると、彼はなんてことないように親指を立てて、そのままクイッと首を切る素振りを見せた。……追い返したって。松田さん最強か。
ウチのモンスターペアレントの凄さを改めて感じつつ、「あのね」と話し出したコナンくんに合わせて少し痛む膝を庇いながらその場にしゃがみ込む。
「昨日桃お姉さんすっごく顔色悪かったから、心配になってきちゃったんだ」
「小学生に心配されてんじゃねぇか」
うるせえ。
本当に心配そうに私を見るコナンくんに「ありがとう」と微笑む傍ら、半笑いの松田さんを睨みあげる。
「心配してくれてありがとう。昨日と今日、ゆっくり休んだからもう大丈夫だよ」
「本当? よかったあ」
「ありがとうね。……ところでコナンくん、どうして私の家が分かったの?」
「実は、高木刑事に頼んで教えてもらったんだ!」
「おい警察」
「こっち見んな」
癖というものだろうか。思わずここにコナンくんがいることを忘れて、情報漏洩してくれた同じ警察である松田さんにツッコミを入れると、奴はブンと勢いよく顔を逸らしやがった。自分の都合が悪くなったら見て見ぬふりをする。こういう大人にだけはなりたくない。
「桃お姉さん?」
「ああ、うん、ごめんね。プライバシーのなさにちょっと取り乱しちゃって」
小学生にはプライバシーなんて言葉分からないだろうとわざとそう言ったのだが、この少年は小学生らしからぬ知識を持っているらしい。はは、と乾いた笑みをこぼすコナンくんに、少しだけ目を丸くした。