第2章 燃えたおつきさま
「それにしても本当に災難だったね」
コナンくんと別れ、あの子の知り合いである高木と名乗った刑事にパトカーで送ってもらっている途中。ずっと黙り込んでいた私を気遣ってか、高木刑事が声をかけてくれた。
「僕も別の事件の帰りに通報を受けてすぐに向かったんだけど、びっくりしたよ。死体のすぐ側で君がしゃがみこんでたから、知り合いかと思って」
「いえ、全く知り合いとかでは」
「うん、コナンくんから聞いたよ。あの子も近くにいたらしいね」
ああ、あの時話してたのはやっぱり私のことだったのか。
ちらちらとこちらを見ていたからそうだとは思っていたけれど、本当にコナンくんには感謝しかない。コナンくんがいなかったら、あのままサラリーマンの知り合いだと思われて、今頃は事情聴取でもされていたかも。
次々と流れていく景色を眺めながら、徐に首に指を這わせる。高木刑事がくれたハンカチで拭ったそこにはもう血はついていないけれど、あの時の温もりがまだ僅かに残っていた。
(――トラウマになりそう)
人が目の前で潰れる瞬間など見たら、そりゃもうとんでもないトラウマだろう。私はそれこそ色んな姿の、スプラッタ状態の幽霊を見たことがあるからまだマシだが、そうでなければこんなふうに落ち着いてなんていられなかった筈だ。
「……あ、そこ右に曲がってすぐです」
「ん? ああ、ここかあ。立派な家だね」
「親のおかげで」
ぐるりと建ち並ぶ日本家屋を見て「いいなあ、ここ。落ち着くね」と呟く高木刑事に頷きながら、抱えていた鞄を腕の中で担ぎ直した。
「送って頂き、ありがとうございます」
「ううん。それより、親御さんに僕から説明しなくても大丈夫?」
「はい。この時間はまだ、仕事に行ってますので」
「そっか。……それじゃあまた詳しいことがわかり次第、連絡するね。事件性さえなければ署に来てもらうこともないから」
「分かりました。ありがとうございます。お気をつけて」
「うん。じゃあ、君も気をつけてね」
窓越しにそんな会話をしてから、近所で噂にならないようにとわざわざ音を切ってくれたパトカーが角を曲がって見えなくなるまで見送る。
「……つかれた」
痛む膝と、痛む頭。
それからべっとりと血の着いた制服を見て「これって取れるのかなあ」と呟きながら、玄関へと歩いていった。