第2章 燃えたおつきさま
「清めの塩ってどうやって貰うのかな。カートン?」
「煙草かよ。つーかいらねぇよな?」
「盛り塩って効果あるか試してみたい」
「俺が弾き出されんだろーが!」
いつもは私がポルターガイストで脅されているから、こうして松田さんより優位に立てるのは実に気分がいい。
今日の帰りにでも貰ってこよう、とわざと声に出して言うと、松田さんは盛大に顔を引き攣らせた。
どうしてこうなった。
そんなラノベの冒頭みたいな台詞を心の中で独りごち、額に手を当てる。先程から感じる頭の痛みに加え、鼻が麻痺しそうなくらいの焦げた匂いに一度深く息を吐き出した。
相当死にそうな顔をしているのか、騒ぎを聞きつけてこちらに寄ってきた幽霊のお姉さんが心配そうに顔を覗き込んできている。
ちらちらと視界に映り込む姿に大きな怪我はなく、綺麗な姿のままだったことだけが今の私にとって唯一の救いだ。
(……やっぱり、朝に清めの塩貰いに行くべきだった)
額に手を当て、顔を伏せることで出来るだけ見ないようにしていたその先。
この匂いと頭痛の原因である真っ黒なモヤが、夥しい量の血の傍で知り合いの警察官と話している少年をじっと見下ろしていた。
――さて、こんな状況になったのは今から数十分前のこと。
相も変わらず友人のいない私が一人下校をキメていると、ふとまたあの嫌な匂いが鼻を掠めた。
頭がそれを理解する前に、ブツンと何かが弾ける音が耳元で響く。そして、それと同時に肩に掛けていた鞄がその場に落ちた――その、瞬間。
「っ、……!」
パン、と。
何か重いものが潰れる音と、すぐ目の前を通り過ぎた塊に、反射的に左足を擦って息を飲む。
ぱちぱちと目を瞬かせ、何が起きたのか冷静に考えてみる……が、自分の眼下に広がる光景を見れば、考える必要なんてなかった。
腕や足があらぬ方向に折れ曲がった状態で、転がる四肢。見える筈のない内臓がそこらに散らばっていて、赤黒い塊がごろりと腹部だったものの辺りに転がっている。そして、その塊――仰向けに倒れているスーツの男性は、生気のないガラス玉のような目を大きく見開いており、まるでこちらを見ているようだった。
「きっ、きゃああああ!」
何ひとつ音のない時間の中、耳を劈くような誰かの悲鳴がその場に湧き上がる。