第2章 燃えたおつきさま
「多分、な。実際俺はその場に立ち会ってねぇから断言は出来ねぇけど、それだけ桃に干渉出来たってことは、相当強い力を持ってることは間違いねぇだろうな」
「へえ。だから、松田さんも気づいたの?」
「俺は桃と長くいるからな。お前からだけじゃなく、俺からも多少は同調出来んだよ。そしたら妙な匂いさせてるし、顔色も悪かった。何かやらかしたことくらいすぐ分かる」
「私が悪いみたいな言い方やめろ」
「口悪ぃ」
「十中八九、松田さんのせい」
「……育て方を間違えたか」
本気のトーンでそんなことを言いながら額に手を当て項垂れる松田さんにくつりと喉を鳴らし、ゆるりと目を瞑ってあの時のことを思い出す。
鼻をつくような焦げ臭い香りに、肌を刺す焼きつく痛み。まるで火の海の中に取り残されたような熱さと孤独は、心が握り潰されそうなほどだった。
そして一番強く感じたあの感情は、おそらく――後悔、だろうか。
「……なんとなくだけど、悪い幽霊じゃないと思う」
「幽霊に良いも悪いもねぇよ」
俺達はそもそも生きてるお前らに干渉すべきじゃないんだからな、と。
あの幽霊を弁護するみたいな私の物言いに、眉一つ動かすことすらせずに言った松田さんの目は、サングラスに隠れてしまってよく見えない。けれどその声が僅かに自嘲を含んでいるように思えて、咄嗟に「そんなこと言ったってさ」と言葉を紡いだ。
「私は視えるものは視えるし、出会ったものは出会ったんだよ」
まるで、私と松田さんが出会わなければ良かったみたいな物言いに、無意識のうちに視線が下に下がっていく。
松田さんが私のことをどう思っているのか訊いたことはないけれど、それでも私は松田さんのことをとても大切に思っているのだ。そんな相手に出会わなければ良かったなんて言われて、何も気にせず平然としていられる程、私はまだ大人になれない。
「……悪かったって。ほら、ラムネやるから」
「……それ買ってきたの私だけど。しかも齧りかけだし」
「本体は無事だろうが」
齧りかけのシガレットラムネの霊体を手渡してくる松田さんに呆れ顔を向けると、何故かあっちがムッと顔を顰める。
そうしたいのは私の方だよ、と腹いせにグラサンを指紋だらけにしてやろうと思ったけれど、私の指はただ空気を掴むだけだった。