第2章 燃えたおつきさま
自分のよりもずっと小さく、むちむちとした手が、丁度卵に伸ばしかけていた私の手に重なる。
その瞬間、なにかの恋愛ドラマのテーマソングが頭に流れたが、あいにくそんな甘い展開は待っちゃいない。
「あ、ごめんなさい、お姉さん」
相手の男性……というよりは、男の子、は。歳の割にしっかりとした口調でそう言ってから、慌てて重なっていた手を引っ込めた。
「ううん、私こそごめんね。はいどうぞ」
「ありがとう!」
この子もまた親からおつかいを頼まれたんだろうか。
小さな手に少年が取ろうとしていた卵のパックを乗せてやると、少年は嬉しそうに笑ってお礼を言い、パタパタとレジの方へと駆けて行った。……うーん。松田さんが見たらきっと攫ってしまいそうなくらい可愛い子だ。ほら、あの人ロリコンヤクザだし。
本人に聞かれたらまたポルターガイストで広辞苑をぶつけられそうなことを考えながら、自分の分の卵も無事確保する。
これで頼まれた買い物は終わりだし、あとは松田さんへのお土産にシガレットラムネでも買っていってあげようと、お菓子コーナーに移動する。
――その途中、ふと鼻を掠めた焦げ臭い香りに思わず眉を顰めた。
一瞬立ち止まった後、試食コーナーで焼肉でも焼いているのだろうかと、大して深くは考えずに再び歩き出す。しかし、それにしてはあまりに焦げ臭い。その香りはお菓子をカゴに入れてからレジに近づくにつれて強くなり、ついには鼻を覆っていないと耐えられない程になる。
それなのに、他の人は平気そうな顔をしていた。まるで、そんな香りなんてしないというように。
(……これ、は)
幽霊の仕業だ。
すぐにそう気づいて、暑さからくるものじゃない、ぞっとする程冷たい汗が一筋背中を伝った。
松田さんいわく私の霊感は、他の人よりもずっと強いらしい。
だからこうして、霊感がない人だけでなく、多少霊感がある人でも気づかないようなことも感じ取れてしまうのだが、それでもやはり限度というものがある。
相手、つまり幽霊側の力や想いが弱ければ弱い程、私が感じるものも弱くなる。
しかし、この香りは。普段からそれなりに慣れている私が普通にしていられないくらい、強く鮮明に感じられるのだ。
――それすなわち、相手の幽霊がそれだけ強い力や想いを抱いているということ。