第2章 燃えたおつきさま
だからといって、幽霊が視えるこの力を疎ましいと思ったことは、一度だってない。
この力のおかげでこうして松田さんと出会えたわけだし、他にもたくさんの優しい幽霊と知り合うことが出来た。もし幽霊が視えなかったら知らないことや、絶対に体験出来なかったこともいっぱいあっただろう。
だからこそ。大事な幽霊の友人達のことを隠したまま、生きている誰かと心から打ち解けることなんて出来ないのだ。
だって、私にとっては彼らは家族みたいなものなのだから。
「……めんどくせぇ奴」
「うん、知ってる」
だから友達いないんだよ、と。肩を竦めて笑って見せれば、松田さんは少しだけ困ったように片眉を下げて笑い、ぐしゃぐしゃとポルターガイストで私の頭を撫でてくれた。
◇
あれから暫く松田さんに、彼の課した無茶な筋トレメニューについて抗議をしていると、エプロン姿の母親に暇なら買い物に行ってこいとおつかいを頼まれた。
松田さんは基本的に私が外にいる時はついてこないので、サングラスを頭に乗せて「せいぜい運命の出会いでも見つけてこい」とあぐらをかきながら見送ってくれた。
お土産は煙草な、とか言われたけど、銘柄が分からない上に未成年に煙草を買いに行かせる警察官ってどうなんだ。いや買わないし買えないけど。
本当に警察官らしくない、と今頃仏間にお供えしてあるまんじゅうを盗み食いしてるだろう松田さんを思い浮かべながら、母親に頼まれた物を買い物カゴに入れていく。
人参、玉ねぎ、じゃがいも、トマト……このラインナップはカレーか。
家を出る前に渡されたメモに書かれたそれらを見て今日の晩御飯のメニューを予想しつつ、がらがらとカートを押す。
カゴの中に入っているのは野菜ばかりで帰りは中々重そうだ。行きの坂道を乗り越えて自転車で来たのは正解だったかもしれない。この暑さの中、重い荷物を持って歩いて帰るのは地獄だろう。
「あとは特売卵――」
おひとり様一パック限定の特売卵、とご丁寧にそこまで書かれたメモを握りしめ、卵の陳列コーナーに向かう。
特売というだけあって棚にはもうほとんど残されておらず、まだ昼の十二時なのにあと数パックしか置いていない。
なんとか間に合ってよかった、と。一番下の棚に置いてあるそれに手を伸ばしかけた時だった。