第26章 翡翠の誘惑
豪快に笑って、マヤの肩をバシバシ叩いていると。
「おい、何を騒いでいる」
二人の背後から聞こえてきた声は。
「「兵長!」」
思わずマヤも立ち上がってしまった。
「ええっと、マヤに紅茶をおごるところでした」
「そうか」
じろりとリヴァイの鋭い眼光に射抜かれて、オルオは言い直した。
「……でしたが、ちょうど眠くなってきたんで俺は部屋に戻ります! マヤ、おごるのはまた今度! じゃな!」
「えっ、あっ、オルオ!?」
突然オルオが船室に帰ると言い出して、話がのみこめずにマヤは慌てた。
「失礼しました!」
自身に向けて下げられたオルオの頭に “あぁ” と短く返すと、リヴァイは去っていったオルオなど最初からいなかったのごとく。
「座れ」
状況がよくのみこめないが、命じられて反射的にマヤはすとんと腰を下ろした。
それを見たリヴァイは、すっと紅茶を買いに行った。
その背中を放心状態でマヤは眺めている。
……兵長が、紅茶… 買ってる…。
何がどうして、一瞬でこうなった?
オルオが上機嫌で紅茶をおごってくれると、はしゃいでいたのに。あっという間に消え失せて、今は兵長がおごってくれている。
……おごってくれている… じゃない!
急に現実を認識して、マヤは弾かれたように立ち上がった。
が、時すでに遅し。
両手にティーカップを持ったリヴァイが席に帰ってきた。
「すみません! 払います!」
「……あ?」
「ちょっと、ぼうっとしてました…」
そう言い訳しながら財布を出そうとすると、不機嫌な声にさえぎられた。
「オルオにおごってもらうところだったんだろ。俺が代わりにおごってやる」
その声は有無を言わせない圧倒的な雰囲気だったので、マヤはすごすごと引き下がった。
「……ありがとうございます…」
そのまま座ったマヤの前にティーカップを置いて、リヴァイも正面に腰かけた。
「……いただきます…」
とりあえず紅茶に口をつけたが、リヴァイ兵長が黙ってこちらをじっと眺めているし、ひどく落ち着かない。
……なんでこんなことになっちゃったの。なんで急に眠くなるのよ、オルオの馬鹿!