第11章 紅茶の時間
ミケの予言どおりにリヴァイは、明くる日から休憩のときには必ず顔を見せるようになった。
特に何を話す訳でもないが毎日一緒に紅茶を飲むうちに、リヴァイが苦手だったマヤも随分と慣れてきた。
相変わらず常に眉間に皺は刻まれていて不機嫌そうに見えるが、実は必ずしもそうではないことがわかってきた。
何かと舌打ちするし言葉遣いも良いとはいえないが、意外と礼儀正しく驚くほど規律に厳しい。
マヤはそれを好ましく感じた。
……リヴァイ兵長って真面目だったんだ…。
最初は多少の躊躇があったリヴァイも、回を重ねるごとにミケの執務室で休憩することが日々の当たり前となった。
マヤの淹れる紅茶は文句のつけどころがなかったし、会話も過不足なく適度で心地良い。
談笑が終わると、ミケは新聞に目を通す。マヤは静かに紅茶を愉しんでいる。
リヴァイは無意識のうちに、マヤの顔ばかり見ていた。
白くなめらかな肌にかかるさらさらの髪。深い琥珀色の瞳も印象的だが、伏せたまつ毛も美しい。
目が離せないでいると急にマヤが顔を上げ、リヴァイは慌てて目を逸らす。
しばらくするとまた、引き寄せられるように見入ってしまう。
………………………。
ミケはリヴァイが毎日顔を出すようになってから、密かにリヴァイとマヤの観察を楽しんでいる。
マヤが紅茶を淹れ、リヴァイが礼を言う。
そして二人は他愛もない話をする。この間などは年寄りみたいに天気の話題だった。あのリヴァイが恐ろしく退屈な天気の話題を、嫌がりもせず神妙な面持ちで受け答えしている。
ミケにはそれが面白くてたまらなかった。
ひととおり会話が済むと、沈黙が訪れる。
うつむくマヤの長いまつ毛を、リヴァイが見つめている。
ふとマヤが顔を上げ二人の視線が絡んだかと思うと、リヴァイはすっと紅茶に目を落とす。
頬を赤らめ視線を落とすマヤを、またリヴァイは見つめる… 紅茶の湯気越しに繰り返されるその光景を見つづけるうちに、ミケは自身の感情の変化を感じた。
最初は面白がって見ていたのに、いつの間にか胸の奥がチクリと痛む。
……頬を染めたマヤの視線の先にいるのが、リヴァイではなく俺だったならば…。