第25章 王都の舞踏会
……綺麗…。
深みのある翡翠色の瞳は髪をかき上げたその一瞬に、仄白い月の光を浴びて煌めいた。
……目が… 離せない…!
翡翠色の瞳の中で初夏の夜空が無限に広がり、月光のしろがねが妖しく、儚く、きらきらと反射してまぶしい。
たった一度… 覗きこんだだけなのに、永遠に囚われて眩惑されてしまいそうになる美しい瞳。
……星の瞳だわ…。
「レイさん…、その瞳…」
こんなことを訊いていいのか… わからない。
でも訊かずにはいられなかった。
「どうして隠してるの…?」
「……色々あんだよ」
「……そんなに綺麗なのに…」
「そうか…?」
「ええ。とっても印象的な翡翠だわ…」
本当はもっと、言葉を並べてその美しさを表現したかった。本物の宝石の翡翠よりも遥かに美しく、透明感があって、煌めく星を宿した神秘の瞳だと。
でも言えなかった。
口に出したら、儚くも消えてしまいそうで。
「そんなこと言うならマヤだって…」
もうレイは髪から手を離しているので、その翡翠色の瞳は見えないが、黒髪の奥から自身の顔を見つめているのがマヤには強く感じられた。
「……吸いこまれそうな… 琥珀じゃねぇか…」
レイの低い声が掠れている。
「そう… ですか…?」
「あぁ」
レイはふいっと横を向いてしまい、そこで話は途切れた。
テラスに降りそそぐ白銀の月明かりが、レイの黒髪を明るく照らす。
マヤはなぜか動けなくて、黙ってそのすらっと背の高い横顔を見つづけた。
一方レイは、唐突に自分を襲った感情を鎮めるために、夜空を見上げた。
予定外にテラスに現れた変な女。
同僚や給仕に心を配って、気立てのいい女だとは大広間にいるときから思ってはいたが。
言葉を交わしてみれば、意外と面白くて馬が合う。
オレの目を綺麗だとささやく。
それを聞いた瞬間に、頭に浮かんだ言葉は。
「そんなこと言うならマヤの瞳だって…」
至近距離で覗いたマヤの顔。
月の光に浮かんだ白い顔に煌めく、琥珀の瞳。
思わず息をのむ。
今まで飽きるほど手にしてきたどんな宝石よりも綺麗だと、胸が苦しくなった。