第25章 王都の舞踏会
「でよ、あの白いドレスの子…、本当にカインに輿入れすんの?」
「え?」
輿入れなんて古めかしい言い方をするレイに、一瞬戸惑う。
「メイドらが騒いでたぜ? 伯爵がドレスを特注して呼び寄せた、未来の奥様だって」
「未来の奥様? ……私たちはそんなこと全然聞かされずに来ました。でも…、ドレスは純白でと指定があったから、もしかしてウェディングドレス? とか冗談ではペトラと言ってたけど…」
「どういう経緯か知らんが、呼びつけて本人に会って気に入ったってところか…」
レイは低い声で独り言のようにつぶやいていたが、こう質問してきた。
「そのペトラ? は結婚する気あんのか? カインの方は間違ぇなくご執心だぜ。ホストのくせに他の令嬢に声もかけずにあんなずっと一人の女と踊るなんてありえねぇ話だ。婚約者だったら許されるかもだけどな」
「そうなの…? 私、貴族の舞踏会の決まりとか全然わからないんですけど…」
「舞踏会を主催したホストは…、今日でいえばグロブナー伯爵とカインな…。そのホストってぇのは招待したゲストが退屈しねぇように気を配るもんなんだよ。誰にも声をかけられねぇ令嬢がいたら…」
そこでレイは言葉を止めてこちらをじっと見ている気がしたので、マヤは自分のことを言っているんだなと思った。
「一曲踊るものなんだ、マナーとしてはな」
「なるほど…。だからカインさんがペトラとばかり踊っていたのは社交界のマナーから逸脱しているってことなんですね」
「そうなるな」
「それでマナー違反を承知でペトラとずっと踊ってるし、婚約になっちゃうってこと?」
「いや、そうと決まった訳でもねぇけどよ。慣習から外れたことやりゃ、後ろ指をさされて色々と厄介だから普通はしねぇんだけどな。だから何を言われてもいいくらいにペトラを気に入ってんのか、文句言わせねぇために婚約まで強引に持ちこむかじゃねぇかと思うんだが」
……婚約まで強引に持ちこむ…。
レイの説明にマヤは不安を覚えて青ざめた。