第25章 王都の舞踏会
「そうなんですね…」
「あぁ。上級貴族と名士をたんまり呼ぶとかで人手不足なんだろうよ」
「名士の方って…?」
マヤは貴族以外に名士と呼ばれる人なんかいたっけ? と首を傾げた。
「あんた、あの老け顔と一緒に必死こいて同僚を見張ってたもんな。まわりを見渡す余裕もなかったって訳だ」
「まぁ!」
先ほど、ドレスのことを何もわかっていないと言われたときは腹は立たなかったが、今回は違った。
オルオのことを一度ならずも二度までも “老け顔” 呼ばわりされ、少々むっとする。
「オルオは確かにちょっと老け顔かもしれないけど、口の悪い給仕さんに何度もそう呼ばれるほど老けちゃいないわ。それに私だって “あんた” なんて名前じゃないです!」
「……そう怒るなよ。悪ぃ、あんた名前なんていうの?」
一瞬、長い前髪の間から、給仕の瞳がのぞいた気がした。
「マヤです」
「マヤか。いい名前じゃねぇか」
「そんな今さら褒めたって知りません」
「ぷりぷりすんなよ。オレ、わかってるぜ? そのオルオってやつ、マヤの大事な友達なんだろ? 見張ってた白いドレスの子も」
「ええ、まぁ… そうよ」
オルオとペトラが大事な友達だろう? と訊かれて、そのとおりなので肯定するしかない。
「オルオにも白いドレスの子にも気を配って水を渡してさ、いい女だな、マヤ」
“いい女” なんて面と向かって言われて、マヤは顔が赤くなる。
それに水という言葉で、そもそも給仕に深く感謝していたことを思い出した。
「……水だけど…。ずっと運んでくれてありがとう…。すごく感謝してます…。もともとそれを伝えたかったのに、ごめんなさい」
しおらしくうなだれたマヤに給仕は優しい声を出した。
「おいおい、怒ってたのに謝ってんのか? 水のことは給仕の仕事だから当たりめぇだろ? 給仕にいちいち礼を言う女なんか初めてだぜ。ほんと面白ぇな、マヤ! 気に入ったわ、オレ… レイっていうんだ」
「……レイさん…」
「あぁ、そう。よろしくな」
そう笑って白い歯を見せたレイの前髪に隠された瞳が再び、月の光の下できらりと輝いた気がした。