第25章 王都の舞踏会
「そりゃあ、わかるさ。夜会でドレスなんざ嫌ってほど見てきたからな。ディオールでもピンキリでよ、なかでもベルナールの右腕のエステルが縫ったドレスとなれば、おいそれとは手に入らねぇぜ?」
「あの…。でもこれ、時間がなくてセミオーダーだったんです。だからデザインは決まっていて。エステルさんが縫ったとか、どうして…?」
「ハッ、デザインはすべてベルナールが考えてんだ。オレが見てんのはそこじゃねぇよ。仕立ての部分だ。それとアレンジだな。あんた、ドレスのことなんか何もわかっちゃいなさそうだし、アレンジとか全部エステルに任せただろ?」
“あんた、ドレスのことなんか何もわかっちゃいなさそうだし” などと何気に小馬鹿にされた気もしないでもないが、なぜだろう? 言い方の問題だろうか、腹は立たない。
「そうですね、全部エステルさんにお任せしました」
「だろ? この袖の…」
給仕は、ぴしっと指さした。
「透け感のあるレースのパフスリーブは、エステルの好きなアレンジなんだよ」
まるでこの給仕がベルナール・ディオールではないのかと思うくらいに詳しくて。
「……よくご存知なんですね…」
「まぁな。ドレスは腐るほど見てきたからな。でよ、エステルは針子は引退したはずだし、すげぇレアだぜ? そのドレス。伯爵のやつ、よっぽど金をつぎこんだんだな」
「……伯爵のやつ…?」
……給仕さんがいくら私に気を許して敬語を使わなくなったとしても、雇い主である伯爵のことを “やつ” だなんて…。いくらなんでも奔放すぎやしないかしら?
怪訝そうなマヤの声、疑うような視線。
給仕は “あぁ…” と気づいて、あっさりと白状した。
「オレ、ここの給仕じゃねぇんだ。臨時で入ってるだけ」