第25章 王都の舞踏会
下げられていた黒髪の頭が、ゆっくりと上がっていく。
だが相変わらず目が見えず、また何も言わないので給仕の反応がマヤにはわからない。
「……だから私に気を遣ってもらわなくて大丈夫です!」
給仕の肩が少し揺れている。
「あの…、給仕さん…?」
「あはは…!」
給仕は笑っていた。
「……あんた、面白ぇな!」
「え?」
いきなりの口調の変化にマヤはついていけない。
「給仕に気を遣うお嬢様なんて、初めて見たぜ」
「だから私はお嬢様じゃなくてですね…!」
「知ってるって。調査兵団の兵士なんだろ?」
「そうです」
「あの老け顔の兵士とずっと一緒にいるとこ見てっからな。そんな自ら名乗らなくてもわかってるって。それに団長と兵士長も来てるしな。それにしても…」
また給仕は、くっくっくと肩を震わせた。
「そんな特上のドレスを着て、私はお嬢様じゃない、兵士です!なんて叫ぶ女、初めてだぜ」
笑われるなんて想定外だったマヤは、顔を赤くして言い返した。
「わ、笑わなくてもいいじゃないですか! だってお嬢様じゃないのは本当だし、ドレスだって着たくて着てるんじゃないわ!」
「あぁあ~、もってぇねぇな! そのドレスを着たがる令嬢なんか腐るほどいるだろうに」
「そうなんですか?」
「あぁ。ちょっと来てみろ?」
手招きされて、素直にテラスの奥へ行く。
給仕はそばに立ったマヤのドレスを上から下まで眺めて、うなずいた。
「やっぱり間違いねぇ。大広間にいるときから、多分そうじゃねぇかと思ってたけどな」
ひとり納得して悦に入っている給仕。
「………? 何がですか?」
「エステルのドレスだろ? ディオールの」
「そうですけど…。どうしてわかったの?」
マヤは疑問に思う。
確かにディオールのドレスで、エステルさんたちが縫ったものだ。でもフルオーダーではなく、セミオーダーであるからして、たとえばデザインはあらかじめ決まっていたし、エステルさんの名前が出てくるのは何故だろう?