第25章 王都の舞踏会
「エルヴィン様~!」
「団長様~!」
黄色い声が近づいてくる。
むせ返るような香水の匂いとともに。
色とりどりのドレスの花をまとった貴婦人たちが、エルヴィンを迎えにやってきた。
「またお話してくださいな」
「そうそう、リヴァイ兵士長がお一人で恐ろしい巨人に立ち向かっていったってお話のつづきが聞きたいですわ」
「あたくしも!」
先ほどエルヴィンが “リヴァイは貴族令嬢のさえずりにうんざりしていたから” と言っていたが、まさしく小鳥がピーチクパーチクとさえずっているようだ。
エルヴィンは令嬢たちに囲まれて、行ってしまった。
「団長、行っちゃったね」
「そうだな。兵長はどこに行ったんだろうな?」
「さぁ…。何かあったのかしら?」
「どんな理由かわからんけど、団長が言うとおりに兵長は貴族から逃げ出せて喜んでるんじゃね?」
「そうかもね」
そんな会話をつづけながら、壁にもたれかかってペトラを見ていた。
「オルオ」
「あぁん?」
ずっと同じ姿勢で壁の花と化しているオルオは、少し… いやかなり、投げやりな状態だ。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「おぅよ」
マヤはオルオを残して、大広間を出た。
……どこだろう? オルオに訊けば良かった…。
便所の場所がわからず、大広間を出てから後悔した。
……こっちかな?
確か最初に執事に案内されて、応接間から大広間に移動したときには、便所らしきところはなかったはずだ。
ということは、行きがけに通らなかった方向の廊下を行けばあるのではないか。
マヤはそう考えて、薄暗い廊下を進んだ。
角を曲がろうとしたときに聞こえてきた、それは。
「使用人の分際でふざけるな!」
「申し訳ありません」
怒声に驚き、立ち止まる。
するとすぐに、角を曲がって一人の男が姿を現した。
誰だかは知らないが、服装から貴族だとわかる。ぴんと両端が跳ね上がったカイゼル髭のその男は怒りで顔を真っ赤にしながら大股で歩み去った。
すれ違ったマヤのことなど、見向きもしない。
そっと角を曲がってみると、貴族に怒鳴られていた使用人はもう廊下のかなり先を行くところだった。
……あっ、あの髪型は…!
それはオルオ曰く “モップ犬“、ペトラ曰く “ボサボサ頭“ のあの給仕だった。