第25章 王都の舞踏会
「ん? 着いたか?」
ペトラと同じく、いつしか深い眠りについていたオルオは寝ぼけまなこだ。
「じきに着く。いい加減に目を覚ませ」
ペトラが答えてくれるかと思いきや、リヴァイ兵長の鋭い声が飛んできて一気にオルオは覚醒した。
「了解です!」
敬礼までして跳ね起きたオルオにエルヴィンは笑みを見せたが、次の瞬間には厳しい顔をしてこう切り出した。
「ペトラ、オルオ。マヤにはもう話したが、君たちに伝えておきたいことがある」
「「はい!」」
エルヴィンはピクシス司令から得た情報を話し始めた。
「……以上だ」
エルヴィンは二人に、ハンジがフューネラルドレスだとか、生贄の花嫁のドレスだと言ったこと以外をあますことなく伝えた。
それを聞いていたマヤはこう考えていた。
……団長はきっと、ペトラを怯えさせないようにしているんだわ。
オルオにはあとで私から伝えて、一緒にペトラを守らなくちゃ。
「どうやら着いたみてぇだ」
馬車の速度が落ちた。
リヴァイの声に皆が窓の外を見る。
石柱と鉄格子でできている大きな門。
「……お屋敷は見えてますね」
マヤの言葉にリヴァイは口角を上げた。
「そうだな。屋敷の見えねぇバルネフェルト公爵は別格だからな。グロブナー伯爵の方が普通なんだろうよ」
それでももちろん商人の邸宅よりは比べものにならないほどの大きな屋敷に、オルオもペトラも歓声を上げる。
「すげぇ! でけぇ!」
「……緊張してきちゃった!」
ゴトゴトゴトゴト…。
「あっ!」
馬車が鉄格子の門を入ろうとするとき、マヤは叫んだ。
「どうした?」
「兵長…、あれ… 見覚えが…」
指さしたのは門の紋章。剣に蛇が巻きついている独特なデザインで、見る者におどろおどろしい印象を残す。
「グロブナー家の紋章だな。マヤ、どこで見た?」
「えっと…」
目をつぶって必死で記憶をたどる。
どぉぉぉぉぉぉぉ! ごぉぉぉぉぉぉぉ!
砂埃と喧騒とエルヴィン団長の雄叫び。
「前進せよ!」
疾走するアルテミスの上からの視界を流れていく、街の景色。燕尾服を着た御者がいる二頭立ての馬車。
車体の紋章。
マヤは、かっと目をひらいた。
「トロスト区です! 壁外調査で門を抜ける直前に見ました!」