第25章 王都の舞踏会
エルヴィンとリヴァイの会話から、貴族の中にも立派な人がいると知り、マヤは安堵した。
「いい人もいるみたいで安心しました。今から悪の巣窟に踏みこむような気持ちでいたから…」
「リヴァイ、お前が糞溜めなんて言うから…」
ちらりとリヴァイの方を見てから、エルヴィンはマヤに優しく声をかけた。
「マヤ、リヴァイの言うようなクソみたいな貴族は一握りだ」
「はい、わかりました。そのバルネ… フェルト? 公爵は舞踏会に来られるのでしょうか?」
「さぁ、どうだろう。グロブナー伯爵からしたら絶対に顔を出してもらいたい重鎮だろうから、招待状は出していると思うが…。もしいたら紹介してあげよう…」
はっと隣からの無言の圧に気づいて、エルヴィンはつけ加えた。
「……リヴァイも一緒にいるときにな」
「はい」
マヤからしたらエルヴィン団長が立派な人物であるのに、その団長が立派だというバルネフェルト公爵は一体どんなに優れた人物なのだろうと想像してみた。
………。
だが想像するにもまずは、年齢がわからないとどうしようもない。
「あの…、バルネフェルト公爵はおいくつくらいの方ですか?」
「そうだな…、正確な年齢は知らないが四十半ばくらいじゃないかな。物静かな人だよ」
「そうなんですね」
以前読んだ小説に出てきた、ロマンスグレーの素敵なおじさまを思い浮かべて、マヤは微笑んだ。
ちょうどそのとき。
「……うーん!」
すっかり眠ってしまっていたペトラが目を覚ました。
「起きたか?」
エルヴィンに声をかけられたペトラは慌てて背すじを伸ばした。
「……すみません、寝てしまいました」
頭をかきながら、ひじでオルオをつつく。
「……ふぁ?」
「……起きなさいよ!」
小声でささやくが、狭い車内では向かいに座るエルヴィンにもリヴァイにも丸聞こえだ。