第25章 王都の舞踏会
「……屋敷? 森しかないですけど…」
訝しげな声を出すマヤに、リヴァイは言い直した。
「……敷地だ。屋敷は門を入ってからも見えねぇずっと奥にあるしな」
……門から見えないだなんて、そんなに広いんだ。
そう思いながら質問した。
「ここがグロブナー伯爵のお屋敷ですか?」
「いや…。ここは公爵の土地だ」
リヴァイの補足を、それまで黙って聞いていたエルヴィンがする。
「バルネフェルト公爵の敷地なんだ。あの塀の向こうだけではなく、反対側のこの公園も公爵の管轄だ」
そう聞かされて反対側の窓に目をやれば、青々とした芝生が広がっており、手入れされた花壇やベンチが点在していて小さな子供を連れた家族が遊んでいるのが見えた。
「広い公園ですね」
マヤが感想を述べているあいだにも馬車は進み、窓から煉瓦の塀も芝生公園もどんどん後方に流れていくが、終わりのくる気配がない。
「どこまでその公爵の土地なんですか?」
「バルネフェルト公爵の敷地を走り抜けるのには、まだもう少しかかるよ」
「すごい…」
「そう、本当にすごいんだ… バルネフェルト公爵は」
エルヴィンの瞳に感服の色が灯る。
「この広大な公園も私有地なんだが、開放して誰でも自由に憩えるようにしているんだ」
「優しい方なんですね」
「そうだね。船で私が “貴族の中にはまともで立派な人もいる” と言ったのはバルネフェルト公爵を思い浮かべていた」
「確かに公爵は、クソ貴族にしては唯一まともかもしれねぇな」
貴族を毛嫌いしているリヴァイも、めずらしく褒めている。
「リヴァイ、“唯一” ということはないだろう。ロンダルギア侯爵も素晴らしい人物だぞ?」
「……そうかもしれねぇな」