第25章 王都の舞踏会
ゴトゴトゴトゴト…。
馬車は順調にグロブナー伯爵の屋敷に向かって進んでいる。
連絡船が王都の船着場に着くころには、ペトラもオルオも起きてきた。
「……よく寝た…!」
二人が “よく寝た” と言いながらもまだ寝足りないような顔をしながらエルヴィン団長、リヴァイ兵長、そしてマヤとともに下船すると、立派な辻馬車が調査兵団一行を待ち構えていた。
四頭立ての大きな箱馬車で、六人乗りだ。
エルヴィンとリヴァイが少し間をあけてならんで座り、その反対側にペトラを真ん中にしてオルオとマヤが座った。
馬車の中では大した会話もなく、一定の振動に揺られたペトラとオルオが、再び眠りそうになって舟を漕いでは互いの肩がぶつかり、はっと目を開けることを繰り返していた。
マヤは窓から流れる景色をずっと見ている。
船着場からは整備された美しい石畳の馬車道がつづき、さすが王都だと感心することしきりだ。
にぎやかな商店の通りでも入るのかと、わくわくしながら景色を見ていたが、馬車は邸宅の立ち並ぶ界隈を走っている。
ヘルネで見かける立派な屋敷の数倍も大きな邸宅に、マヤは思わずつぶやいた。
「さすが貴族のお屋敷…」
するとマヤの正面に座って頬杖をついて窓の外を眺めていたリヴァイが、すかさず否定した。
「あれは商人の家だ」
「え?」
驚いて目を丸くしながら、マヤはリヴァイを見る。
「こんなに大きなお屋敷が?」
「あぁ。このあたりは商人の家がかたまって建っている」
「そうなんですか…」
窓の外には広い庭を構えた大きな邸宅が幾つも見える。
「すごく立派だから、てっきり貴族のお屋敷かと思っちゃいました」
「ハッ、貴族の屋敷は敷地からして、こんなもんじゃねぇ」
「へぇ…」
そんな話をしているうちに、商人の邸宅の界隈は抜けたらしい。
今は煉瓦で造られた長い塀が少し離れたところに見えている。塀は終わりなどないようにつづき、その向こうは広大な森が広がっている。
……森に塀?
そう思っていると、リヴァイがマヤの心の声が聞こえたかのように告げる。
「あれが貴族の屋敷だ」