第25章 王都の舞踏会
エルヴィンはミスリル銀の話をつづける。
「その希少であるがゆえに王家とその近しい特別な一族、爵位の高いごく一部の貴族しか手にできないとされてきたが、グロブナー伯爵の領地から産出されるとなると当然、グロブナー伯爵は容易に手にできることになるし、勢力図が変わってくる」
「そうだな。ピクシスの爺さんが言っていたが、今宵の舞踏会には自分より上の貴族ばかりを招待しているらしい。金にあかせて上流貴族を集めて媚でも売る気なんだろうな」
「あぁ、上流貴族たちも爵位だけでは贅沢はできないからな。地獄の沙汰も金次第… か」
「違いねぇ」
マヤは大人しく、エルヴィンとリヴァイの話に耳を傾けている。
「伯爵より上の貴族だけが集まる舞踏会に急遽、我々を… というかペトラを呼び寄せた。ご子息のたっての希望とのことだが…」
そこまで話してから、エルヴィンはあっと気づいてマヤへ告げる。
「ピクシス司令の情報はもう一つあって、それが伯爵のご子息のことだ。正確な年齢は不明だが、確実に二十歳は過ぎている一人息子がいるらしい。そして今まで社交の場に顔を出したことがなく謎に包まれている」
「その人がペトラを…?」
不安そうな顔のマヤ。
「恐らく」
「今日行ったら、きっと何もかも… その人がどうしてペトラを指名したのか、ドレスをあつらえた理由も… わかりますよね?」
「そうだね、わかるだろう。私とリヴァイも無論目を光らせるが、どうしても貴族に囲まれてしまうときがある。ペトラを一人にしないように君とオルオで気をつけてくれ」
「了解です」
「……紅茶が冷めてしまったな」
テーブルの上の二つのティーカップを見ながらつぶやいたエルヴィンは立ち上がった。
「買ってこよう。リヴァイはストレートでいいな? マヤ、砂糖とミルクは?」
「あっ、すみません! 自分で買います!」
慌てて立ち上がる。
「はは。こういうときは、おごられるものだ」
笑いながら売り場に向かうエルヴィンを追う。
「はい! では私もストレートでお願いします。運びます!」
「助かるよ、買う紅茶は三杯でも手は二本しかないから」
「三本あったら怖いです」
「ははは」「ふふ」
笑い合いながら紅茶を買いに行った二人の背を、リヴァイは面白くなさそうにじっと見ていた。