第25章 王都の舞踏会
「………」
“糞溜めみてぇなところ” とは一体どんなひどいところなのだろうかと、すっかりひいてしまったマヤ。
ひとことも返せないでいると、エルヴィンがリヴァイをたしなめた。
「今から行く舞踏会の夢を壊さないでやってくれないか、リヴァイ。そこまでひどいところでもないだろうに」
「ハッ、あんなところに夢なんかクソのかけらも落ちてねぇよ」
「マヤ、リヴァイはこう言うが貴族の中にはまともで立派な人もいるし、そう捨てたものでもないから」
「……はい」
うなずくマヤにエルヴィンも “それでいいんだ” といった様子でうなずき返すと、話を再開した。
「ピクシス司令から得られた情報は、グロブナー伯爵の領地から出た鉱物がミスリル銀であること」
「……ミスリル銀?」
金、銀、銅の銀は知っているが、ミスリル銀は聞いたことがない。マヤは首をかしげた。
「限られた産地でしか出ない貴重な金属だよ。銀は非常にやわらかく傷つきやすいから銅と混ぜて精製されているが、ミスリル銀はそれ自体が鋼を凌駕するしなやかな強さを持っているんだ。そのうえ銀特有の極上の輝きを有している。加工するには特殊な技術が必要だが、その仕上がりはこの世のものとは思えないほど美しい」
エルヴィンの “美しい” と言った声色が、実感を伴っていたので訊いてみる。
「すごい金属なんですね。団長はミスリル銀を見たことが…?」
「ある公爵の屋敷でミスリル銀の剣を見たことがあるんだ。鏡のように光を反射して、それは綺麗だったよ」
「剣ですか…。てっきり指輪とか腕輪とか、アクセサリーかと思いました」
「装飾用の短剣だったがね。小さいとはいえ、貴重なミスリル銀で作られた剣を所持できるのは、さすが公爵といったところか」