第25章 王都の舞踏会
「そのためにも相手の情報をもとに、しっかりと対策をと思ったんだが…」
エルヴィンの顔がわずかに曇った。
「大して役に立たねぇ情報だったな、ピクシスの爺さんから聞き出せたのは」
リヴァイが口を挟んだ。
「それだけグロブナー伯爵がこれまで、目立たない存在だったということだな」
「あぁ」
エルヴィンとリヴァイの会話を聞いて、マヤはその “大して役に立たねぇ情報” とやらは一体どんなものなのだろうかと考えを巡らせてみた。
………。
だが貴族や、それにまつわる王都での生活、社交界のならわしなどを知らないマヤには、全くもって何ひとつ浮かんでこない。
何か一つでもいい、それらしいことを思い浮かべてみようと小難しい顔をしながら頑張っているマヤに気づいて、エルヴィンは笑った。
「マヤ、何を難しい顔をしている?」
「あっ、はい。グロブナー伯爵の情報ってどんなのかなぁと思いまして…。私なりに考えていました」
「ほぅ? 何を思いついたのかな?」
「……それが、全然何も思い浮かばなくて…。でも… たとえばさっき、伯爵の領地からある鉱物が発掘されたって言ってたから、その鉱山で何か悪いことをしているとか…? あっ、それか財力を賄賂として利用して…? もしかしたら社交界の悪の組織を牛耳っているとか…?」
思い浮かばないと言っているわりには次から次へとまるで冒険小説のような絵空事をならべるマヤに、エルヴィンは心底愉快そうに笑っている。
「なかなか想像力が豊かだな。でも “社交界の悪の組織” はいただけないね」
貴族が催す晩餐会やら舞踏会やら音楽会といった社交の場に、毎回不本意ながら、仕方なく、渋々出席を余儀なくされているリヴァイは吐き捨てるように、こう言った。
「だがある意味合ってるんじゃねぇか? 社交界なんてクソみたいなものだからな」
「手厳しいな、リヴァイは」
隣で腹の底から嫌そうな声を出しているリヴァイの言葉に、マヤは不安になってくる。
「そんなに嫌なところなんですか? 貴族の夜会って…」
「あぁ。上っ面だけのおべんちゃらが飛び交い、けばけばしい香水臭い女が寄って来やがる糞溜めみてぇなところだ」