第25章 王都の舞踏会
「そんな心配、全然いらないと思いますけど…」
マヤにはエルヴィンの言っている意味が全くわからなかった。
……美女好き? 手を出す?
ピクシス司令が綺麗な女の人を好きだとしても、私には関係のない話だし、そもそも手を出すってどういう意味?
だってピクシス司令って死んだお爺ちゃんくらいの年齢だよね…?
「なぜ?」
エルヴィンのひとことに、マヤは正直に胸の内を明かした。
「それは… 私は美女なんかじゃないし、そもそもピクシス司令は祖父くらいの年齢の方ですよ? 手を出すなんて考えられませんし…」
「……チッ」
すぐ隣から忌々しげな舌打ちが聞こえてきて、マヤは思わずリヴァイの顔を見てしまった。
……兵長、怒ってる?
なんだかよくわからないが、どう見てもリヴァイ兵長の機嫌がとんでもなく悪い。
「ははは、祖父の年齢か」
リヴァイとは対照的にエルヴィンの機嫌は、すこぶる良さそうだ。
「ならば私はマヤの父親くらいになるのかな?」
「いえ…! そんなことは…。父よりはずっと若いですし」
「お父さんは何歳?」
「38歳です」
「ハッ、あんま変わんねぇな」
横から憎まれ口をきくリヴァイに、エルヴィンはおだやかに笑った。
「おいおい、そんなことはないだろう?」
「そうですよ。団長は33歳ですよね? 父とは違います」
「あぁ、でも確か君に “お菓子のおじさん” と言われた気もするが」
碧い瞳がからかうように笑っている。
「違います! 言ってないですよ、年齢をちょっと上に思っていただけで、おじさんとは言ってないです…!」
「ははは」
マヤをからかって楽しそうに笑っているエルヴィンと、顔を赤くしてあたふたしているマヤ。
それを横で見ていたリヴァイは、内心面白くない気持ちでいっぱいだった。
「おい」
不機嫌な低い声に、エルヴィンとマヤは動きを止めた。
「祖父の年齢だろうが父親の年齢だろうが、男は男だろうが。簡単に信用するな。お前はもっと危機感を持て」