第25章 王都の舞踏会
「それは光栄だね。我々 “酒豪四天王” 全員でピクシス司令に挑めば、一人くらいは勝てるかもしれない」
そう言って笑ったエルヴィンの顔は楽しそうで。
マヤは団長が気を悪くしていないとわかって、ほっと胸を撫で下ろした。
「ピクシス司令は無類の酒好きなうえに “生来の変人” としても知られていてね。なかなか面白い好人物だし、今度紹介してあげ…」
「その必要はねぇ」
エルヴィンの “紹介してあげよう” をかき消したのは。
「兵長!」
低い声に驚いて振り返ったマヤの瞳に飛びこんできたのは、不機嫌そうに腕組みをして立っているリヴァイ兵長だった。
「なにが好人物だ、好色ジジィの間違いだろうが」
「口が悪いぞ、リヴァイ」
笑いながらエルヴィンは立ち上がって空いている隣のテーブルと椅子を、がたがたと移動させた。
「そんな怖い顔をしていないで、まぁ座れ」
意外と素直にリヴァイは、エルヴィンが作ったマヤの隣の席にすっと腰を下ろした。
「マヤ」
「はい!」
予告もなくリヴァイ兵長が現れたことに心臓が止まりそうになっていたマヤは、名を呼ばれてまた驚き、声が裏返ってしまった。
「ピクシスに用もないのに近づくんじゃねぇ」
「えっ…?」
返事に困って、マヤはリヴァイではなくエルヴィンの方を見る。
「マヤ、リヴァイは心配しているんだ」
「そんなんじゃねぇ」
とリヴァイが言うのと、マヤが、
「何をですか?」
と訊くのが同時だ。
「ピクシス司令は豪放磊落な性分で気持ちのいい好人物なんだが、美女好きでもあるんだ」
「………」
どう反応して良いかわからず、黙っているマヤ。その隣で眉間に皺を寄せて足を組んでいるリヴァイ。
「だから司令が君に手を出しやしないかと心配なのさ」