第25章 王都の舞踏会
エルヴィンは察しがいい。
マヤのちょっとした顔色や声から、すぐに緊張を読み取った。それを解くためにワンクッションを置く。
「ピクシス司令は知っているね?」
「……二度ほど、遠くからですが… お見かけしました」
「そうか。ピクシス司令にはこの先、君も世話になる機会があるだろう」
「はい」
「司令はかなりの酒好きでね」
「そういえばいつも手に持ってらっしゃいますよね? あの… お酒の小さな水筒みたいな…」
マヤはそれの名称を知らなかった。
「スキットルというんだ」
「スキットルですか…。私の父はお酒を飲まないので知りませんでした」
生真面目に答えるマヤを見て、エルヴィンは眉を下げた。
「はは、私は酒は飲むが、スキットルは持ち歩かないよ。ピクシス司令は特別だな。水を飲むように酒を飲む。それもエールやワインなど比べものにならないほどの強い酒をな」
「そうですか…。前にエルドさんに団長は酒豪四天王だって教えてもらったんですけど、団長よりもピクシス司令はお酒が強いんですか?」
「はは、どうだろうな。さしで飲んだことがないから、なんとも言えないが。私もかなり強い方だと思うが、司令には敵わないだろう。なにしろ年季が違うからね」
「そうなんですか。すごいんですね、ピクシス司令は。さすがスキットルを持ち歩いてるだけあります!」
目を輝かせたマヤをまぶしく思いながらエルヴィンは悪戯っぽい顔をする。
「ところでマヤ、“酒豪四天王” ってなんだい?」
「あっ、えっ…」
……エルドさんとグンタさんが言っていた “酒豪四天王” は団長たち本人には内緒だったのかな?
悪口… ではないよね? 言っちゃっていいんだよね?
っていうかもう言っちゃってるよ…。
マヤは泣きそうな顔で答えた。
「……団長と兵長、ミケ分隊長とハンジさんが調査兵団の “酒豪四天王” だと聞いたんです。でもその… 悪口とかじゃなくて、お酒が強くてすごくて尊敬してるみたいな意味です…」