第25章 王都の舞踏会
「それは私にとっても一番の気がかりだよ。貴族なんて信用ならない人種が多いからね」
エルヴィンの言葉で、マヤはずっと訊きたかったことを思い出した。
「それなんですけど団長。グロブナー伯爵は、前に団長が話してくださった “壁外調査を数多くおこなうことを条件に多額の寄付をしてくれている貴族” と同一人物なんですか?」
「あぁ、そうだ。今年に入ってから急に寄付の申し出があってね。壁外調査が条件だった。最初は匿名だったが二度目からは名乗ってきたし、今回に至っては屋敷へ我々を招くという行動に出ている。真意が読めない」
「……そうなんですか…」
寄付を申し出ていた貴族とグロブナー伯爵が同一人物だと判明したが、エルヴィン団長が言うとおりに伯爵の意図を推し量ることができない。
「近年、北にあるグロブナー伯爵の領地からある鉱物が発掘されたらしい。それまではうだつが上がらない貧乏貴族だったのが、破竹の勢いで金も権力もほしいままにしている」
マヤはエステルの言葉を思い出し、思わずつぶやいた。
「……飛ぶ鳥を落とす勢い…」
「そのとおりだ。鉱山を掘り当てる前は地味で存在感のない一貴族だったから情報がないんだ。そこで昨日、リヴァイにトロスト区へ行ってもらった」
「……兵長がトロスト区に…?」
唐突に出てきたリヴァイ兵長がトロスト区へ行かされたという話。マヤはよく意味がわからず、その大きな目をぱちくりとさせた。
「あぁ。今トロスト区にはピクシス司令が来ているんでね」
ピクシス司令ことドット・ピクシスとは、駐屯兵団の司令官であり、現人類領土南部最高責任者だ。
「ピクシス司令は立場上貴族との関係を疎かにしない方でね。色々と事情に通じているんだ。だからグロブナー伯爵の情報を得るためにリヴァイを行かせた」
「そうなんですか…」
マヤはピクシス司令の名前が出てくるような重要そうな話を自分などが聞いてもいいのだろうかと、内心でどきどきしながら相槌を打った。