第25章 王都の舞踏会
“人類の記憶が王政によって改ざんされた”
そんな大それた仮説を立てていた父は、愚かな息子が街の中で友達に話し、それを憲兵に聞かれてしまったがために、遠く離れた街で事故に遭って死んだんだ。
……父さん…。
胸をえぐる鋭さは耐えがたくなって、エルヴィンの眉間に深い皺が寄る。
「……団長?」
エルヴィンの苦悶の表情に気づいたマヤが声をかける。
「大丈夫ですか? 気分が悪そうですけど…」
心配する気持ちのあふれた優しい声に、エルヴィンははっと我に返る。
「すまない。少し…、考え事をしていた…」
……俺は忘れない。必ず父さんの仮説を証明してみせる。
いつの間にかエルヴィンの心の中で父親の仮説は確固たる真実となっていた。
……それが、俺の使命だ。
エルヴィンはあらためて、遠い昔より自らに課した宿命をおのれの心に刻みこむと、意識を “俺” の領域から、目の前で心配そうに自身を覗きこんでいる部下のもとへ戻した。
「……もう大丈夫だ」
エルヴィンの顔色が良くなり、マヤは安堵した。
「死に装束だとか生贄だとか…、怖いことばかり言うし、なんだか具合も悪そうだし…、心配しました」
「はは、確かに物騒なことばかり言っているな。だが当のハンジは能天気なもので “リヴァイの言う花嫁のドレスはもっともな意見だと思うよ? どうだろう? 私のフューネラルドレスとリヴァイのウェディングドレスをかけ合わせて ‘生贄の花嫁のドレス’ というのは” などと冗談めかして笑い飛ばしていたがね」
“生贄の花嫁のドレス” を着るのが親友のペトラだと思えば、マヤにはとてもではないが笑い飛ばすことなんかできない。
「……ハンジさんはうまくしゃれたつもりかもしれないですけど、私はペトラが心配です。本当にグロブナー伯爵はどういう魂胆でペトラを呼び寄せて、純白のドレスを着せるつもりなんでしょう?」