第25章 王都の舞踏会
「……死者に着せるドレス…」
ウェディングドレスとは対極であるフューネラルドレスの存在に、マヤはおののいた。
「あぁ、フューネラルドレスはそれだけではない。生贄のドレスでもあるんだ」
「……生贄… ですか…」
「ハンジが語るには、巨人に生贄を捧げる風習のある村が過去には存在していたと書かれた文献を読んだそうだ。生贄には決まって村の若い娘が選ばれて、穢れのない白いドレスを着せられて人身御供にされたのさ」
「………」
あまりのおぞましさに、マヤは青ざめて絶句している。
「私もその村の風習が出てくる巨人の文献は目を通したことがあるが、ペトラの純白のドレスとは結びつけなかったんだ。そもそも、その生贄の風習が実際にあったかどうかもはっきりしない。ただ、巨人の恐ろしさを伝承する昔話、民話…、いわゆるおとぎ話といった意味合いが強いのではないかと私は考えている」
……この見解は恐らく正しい。
エルヴィンはマヤに語りながらも内心でそう思っていた。
王政にとって都合の悪い史実、事実、真実に仮説…。すべては中央憲兵によって抹殺され “なかったこと、なかったもの” にされてしまう。
……だから父は殺された。
王政にとって都合の悪い仮説を立てていたから。
そしてそれを愚かな息子に話してしまったから。
……クッ。
エルヴィンの胸を鋭い痛みが、稲妻のようにえぐる。
久しぶりに映像として浮かぶ父の墓石。
幼きあの日、教師だった父から聞かされた。
王政の配布する歴史書には数多くの矛盾と謎が存在する。そもそもの謎は文献など残っていなくても、壁に入ってきた世代がその子供に歴史を語り継ぐことができたはず。
……そう、人類は王政によって統治しやすいように記憶を改ざんされたんだ。
したがって文献に残されているものは例外なく、王政にとって害のないもの。
生贄の風習が実際にあったにしろなかったにしろ、巨人の恐ろしさを後世に伝えるには文句のない物語であるからして文献に記されているのだ。