第25章 王都の舞踏会
「私とリヴァイ側だね、君は」
エルヴィンの言葉の意味がわからずに、マヤは曖昧な笑みを浮かべるだけにとどめた。
「ドレスが純白であることが何を意味するのか、幹部それぞれに訊いてみた。真っ当にウェディングドレスを思い浮かべたのは私とリヴァイだ。ミケは純白であろうが漆黒であろうがそのような視覚による差異は、嗅覚がもたらす差異に比べれば大したことではないらしい。ラドクリフは一瞬こちら側かと思ったんだがね…。リヴァイが “花嫁のドレス” だと答えるとそれはもう興奮して “花嫁は、なぜ ‘花’ 嫁というか知っているか” から始まって、延々と花嫁の花にまつわるうんちくを語るんだ」
エルヴィンは唾を飛ばす勢いで花のうんちくを得意げに語ったラドクリフの丸い顔を思い出して、“仕方のないやつだ” と言わんばかりの優しい目をした。
「へぇ…、ミケ分隊長とラドクリフ分隊長はすごくいつもどおりで… “分隊長らしい” ですね。兵長がなんか意外です…」
「……意外?」
「ええ。そんなごく普通に “花嫁のドレス” と答えるなんて」
「そうかい? ではリヴァイならどう答えると思う?」
マヤはほんの少し考えた。
「そうですね…。たとえば “ドレスの色なんか関係ねぇだろ。今は貴族がなぜペトラを指名してきたのか… それを考えるときじゃねぇのか” …みたいな感じです」
愛らしい眉毛をきゅっと中央に寄せてリヴァイの眉間に皺を寄せている顔を、そして口調まで真似したマヤを、エルヴィンはとんでもなく可愛らしいと思った。
「ははは、なかなか似ているよ。さすがデートをした間柄だね」
「……やだ、違うんです!」
ついにエルヴィン団長の口からも “デート” という単語が飛び出してきて、マヤは顔を赤くして否定した。
「おや、違うのかい?」
「……いえ、違うというか違わないというか…」
……私だけがデートだと思っても駄目なんです。兵長も同じように思ってくれなくちゃ、とてもデートですだなんて言えないもん…。